男は親友を亡くしたと泣いた。 濡須口での呉との交戦の際、楽進殿が討たれたとの報を知らされたのは既に昼が過ぎた頃だ。朝から李典殿は今日は嫌な予感がすると言っていた。それは友の死、ということで予感の正体が発覚する。 私は開きっぱなしの李典殿の部屋へ足を踏み入れた。変に冷たい一室だ。彼は部屋の真ん中で、佇んでいる。目元は赤く腫れ、それでもまだその瞳から涙が止まることはない。見てて痛々しくなるほどの姿だった。 「李典殿」 一歩、歩み寄る。返事はなかった。きっと、今喋ることは間違いだったのだろうと思う。彼の横を素通り、寝台へ腰かけた。李典殿は泣くときに声をあげることはなかった。ただ嗚咽を漏らすだけである。私からは背中しか見れなかったが、その肩が、体が震えるときとてつもない寂しさが胸を締め付けた。全体的に部屋が格子窓から陽光が差し込んでいるはずが、ちっとも明るくなんてない。 「どうして、なんだよ」 李典殿はやっと口を開いた。蚊のようにか細い声。こんなの、李典殿じゃないと思ってしまった。ふらふらと椅子へ招かれるようだ。李典殿が座ると、手のひらで顔を覆いながらまた泣き出す。 「これからどうすればいいか分かんねえよ、俺」 声がぶれるほど、ひどい悲しみに打たれているようだった。耳を塞ぎたくなるほどの悲しみに満ち溢れている。私は立ち上がると、李典殿を後ろから抱き締めた。ひた、と彼の震えが止まる。目を閉じて、首元に顔を埋めた。あの柔らかい髪の感触がない。不思議に思ったが、今日は報せを聞いてからずっと泣いてばかりだから、手入れも何もしていなくても仕方ないだろうと、考えるのをやめた。 「李典殿」 「あいつがいるとこの部屋も明るかったんだよな」 「そうですね……。楽進殿自身がおひさまのようなお人でしたから」 李典殿の涙は自然と止まっている。頬はきらきらとしていた。部屋に光が差し込んできたのだ。それはまるで、楽進殿が私たちに大丈夫だと言い聞かせにきたようで。なぜか、胸から熱い感情が込み上げてきた。彼は、亡くなったのだと。李典殿が泣き止むと、私が泣いてしまう。そのことに笑いもこみ上げてくる。 「泣いてねえか心配だぜ、まったく」 「大丈夫ですよ、むしろ彼が李典殿を心配しに来たんじゃないですか?」 「ほんと、太陽が明るいことに感謝したのは初めてだ、俺」 また李典殿は頬に涙を伝わせた。拭い取ろうと手を伸ばすも、拭いきれない。 これだけ泣き虫とは思っていなかった。合肥に滞在する彼にとって、周りには張遼殿しかいないのだ。そんな彼も、まだ帰ってきていない。 「太陽みたいな奴だったよ、」 「はい」 「なぁ、なまえ」 (死んだ花嫁) |