クリスマス企画 | ナノ




 なんとなくという言葉は恐ろしいと思う。
 なんとなく、私は友達に誘われてクリスマスパーティへやってきていた。
 なんとなく、することもなくて会場の端っこで飲んだこともないお酒を飲んでいた。友達に言われてやってきたパーティというのは、思った以上に本格的なものだった。私を筆頭に、軽装の人はごくわずか。みんな、派手な衣装に身をくるんでいる。
 早く帰りたいとは何度も思った。思っては、言えずに酒を煽ってばかり。誰か声をかけてくれればいいのだけれど、しゃべる相手どころか知り合いがほとんどいないのだ。

「なあ、あんた」

 そうそう、こうやって気軽に……。

「え、え?」
「あぁ、すまないね。驚かせちまったかい」

 急いで振り返った先には、私と同じような軽装の男性。それだけでなく、先ほどから視界に写っていた、ひとりで酒を煽っていた男性だった。
 突然の掛け声にうまく声が出ず、私はしょっぱなから恥をかく。面食いではないと思っていたけれど、これはかっこいい。声もいいし、どうしてこんな人を会場の人たちは放っているのだろう。逆に浮いているからだと、辺りを見回して納得。軽装の人がさっきより減っている。

「おーい、どうかしたのか」
「あっ、ごめんなさい」
「いや、謝ることじゃあないよ。それよりあんた、暇そうだね」
「あー、まぁ、暇です」
「こういう場所は苦手?」
「……はい」

 質問に答えるものの、最後の質問には返すのに困った。正直に言っていいものか。こういう質問をするということは、彼もまた騒いだりするのが苦手なのか、主催者という立場か。彼は「わかるよ」と言って、苦笑を浮かべた。「え」と、つい呆ける私。ということは、彼は前者か。

「それで、言いたいことがあるんだけど」
「なんですか?」
「友達さんにあんたを持ち帰るって言っちゃったからさ、俺とすこし付き合ってくれないか?」



「盛り上がるのがそもそも苦手なんです」
「知り合いがいるといいんだけどねえ」
「そう、そうなんです!」

 そう言って、会場を抜け出した私は、新しいお店にて二人で飲んでいた。クリスマスのムードに包まれ、店内は暗めのライトに、赤のトーンが入り混じった店だった。飾られた小さなツリーは可愛らしく装飾をされている。

「淵師さんも誘われてきた感じかい」
「えっと、一応……。クリスマスも、特に予定はなくて」

 しゃべり続けていたから、喉が渇いてしまった。今度は水を飲んで、男性、凌統さんのほうを見た。彼はすこしだけこちらへ顔を傾けていて、グラスに張った氷をからからと揺らした。「安心したよ」と、小さな声でつぶやく。

「周りは予定入りばっかで、ありえねーっての」
「クリスマス、ひとりで過ごす私たちにとっては、そうなのおめでとう、としか言えませんしね」
「そうそう」

 ぐい、と酒を煽り、凌統さんは口を開く。

「けど、今日は素直に楽しめたよ、クリスマス」
「凌統さん……」

 ぱちぱちと店のライトが光る。この店にはたくさんの人がいる。カップルはもちろん、ひとりで、友達同士で。ぱっと見たら賑わいを持っているのに、個々が独自の世界を生み出している。私自身、ようやく反対側の隣に人が座っていることに気がついた。きっと、この人も私たちのことは視界にも入っていないのだろう。

「連絡先を教えてほしいな」
「あっ、もちろんです」

 急いで携帯を取り出し、赤外線を開く。画面のライトが眩しいほど、暗闇に慣れてしまったそうだ。「じゃあ、送信しますね」と言い、顔をあげる。
 そのとき、静かに触れたのは、何か。凌統さんの唇が私のものへ触れ、まるで何事もなかったように離れる。「あ、の」と、言葉がうまく出ない。こういうとき、なんて言えばいいんだっけ。やめてください、ではない。私は確かに、喜んでしまった。こうして考えているあいだ、何も言わず彼を見つめてしまっていた。だからか、

「……突然、で悪かったよ」

 と言って、凌統さんは気の悪そうに、目を逸らした。

「いえ、私も、嫌じゃなかった……です」

 恥ずかしくなってきて、言葉が徐々に途切れて小さくなっていく。しかし、その言葉さえも聞き逃さない彼は私の顔をまっすぐ見つめるのだ。

「本当かい?」

 そう聞かれ、素直に頷いた。

「……とりあえず、連絡先、交換しましょっか」

 一旦家に帰って、頭を冷やさないと。

「帰ったら連絡しますね」
「あぁ、楽しみにしてる」

 財布を取り出し、初めてのデートになるものだから割り勘だと言い張った私に、凌統さんはしぶしぶ納得をした。店員に渡されたのは、終電の時刻表。「あ」と、絶望をしたのは私の方であった。



 
 頭が痛い。それに寒い。でも何かに包まれるこの感じは夢心地で、目を開ける気にならない。差し込む光がやたらと眩しいのがむかついた。昨日電気を……、と疑問、どうやって帰ったのか思い出せない。誰といたっけ。
 駄目だ、頭が痛くて思い出せない。今日は平日の何時だろう。うーん、平日だった気がする。

「……え」

 寒すぎるため、布団を肩までかぶって体を丸める。着てない。一糸まとわぬ状態になっているのだ。

(どうして)

 まさか、と冷や汗が伝う。そういえばこの部屋って、

(……見たことない)

 凌統さんと飲んで、帰ろうとしたら終電がなくて、腹いせに大量に飲んでしまって……。あらかたのことを思い出し、頭を抱える。起きるのが怖い。でも、礼を言うべきか何があったのかを問いただすべきか。

「おはよーさん、淵師」
「……」

 しかも馴れ馴れしくなってるし!
 いかにも、昨日は楽しかったねみたいな顔をして、でも、かっこいいし胸が異常に高鳴ってしまっている。目を合わせまいと、布団を頭までかぶった。見たくない。逃げたい。

「ん、淵師、どうしたんだい」

 だからそう言って覆いかぶさらないでってば!
 ふと首筋に目をあてる。あ、駄目、死んでしまいそう。


ぴんくの花丸が証拠


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