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馬岱

離したくないよ、と言うと、ごめんなさい、と謝られる。離れたいよ、と言ってみると、でも離れられないの、と泣かれてしまう。

「どうしちゃったの、淵師」
「馬岱殿こそ、どうして連れ去ってくれないんですか」
「……それ、は」

珍しく言葉に詰まってしまった。親に言いつけられ決まった許嫁との婚姻が近い淵師は、朝からずっとこの調子だ。私をさらってほしい、馬岱殿と離れたくない。「そんなの」俺だって、そうに決まってるじゃない。今すぐ二人の逢瀬を恰好よく決めたいのに、いざそういった場面が近づくと、怖いんだ。

「君の幸せを、願ってるからだよ」
「こんなの、幸せじゃないです」
「違う、幸せなんだ。ねぇ、淵師。俺は淵師の幸せを願ってる。だからさ、君も俺の幸せだけを願っててよ」

まずは笑って、おいしいお菓子を二人で食べよう。許嫁なんか忘れて、いっぱい抱き締めあおう。そしたら、さよならをしよう。淵師にそう言うと、さらにぼろぼろと泣いて、ぐしゃぐしゃに顔をゆがませてしまった。

「嘘つき」
「淵師は、うろつき、だね」
「全然嬉しくないです」
「ほら、笑ってよ」

俺の笑顔が、泣いてしまわないように。



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