呂蒙 呂蒙殿は世話焼きだ。私が走ったら「こら、止まらんか」と怒鳴る。私が刀を握れば「こら、離さんか」とはたかれる。私が彼と一緒に徹夜をしようとすれば「こら、早く寝ろ」と寝台へ。 「少し、過保護すぎます」 「なに、お前は過保護すぎるのがいいだろう」 「ですが、これでは呂蒙殿の役にちっともたてません」 む、と口を尖らせ、そっぽ向く。呂蒙殿の大きな手のひらが、私の頭をがしがしと撫でた。それはもう乱暴で、父のような、兄のような暖かさを持って。欲をいえば旦那に、と思った私に「馬鹿」と文句を言うと、それを勘違いした呂蒙殿は「なに」と眉を寄せてしまった。 「文句を言うようだが、お前は役にたっているのだぞ」 「どこがですか。しっかり寝て、着飾って、家であなたを待って、片付けや夜食を作ることくらいしかできない私の、どこが」 「そこがだ、淵師」 呂蒙殿は、私の両頬を包み込んだ。わざわざ腰をかがめて、こちらの瞳を覗き込んでくる。 「お前が健康な状態で俺を迎え、そばにいてくれることこそが、俺の何よりもの幸せなのだ」 「呂蒙、殿」 「そうやって俺だけを見ていろ、と思ってしまう俺には、お前に過保護になることしかできんのでな」 「妻になれ、とは言えんだろう」と、呂蒙殿は、言う。妻、とは一体何だろう。それは、呂蒙殿のために女性らしく装い、紅を引いて、帰宅を私邸で待つ人のことか。手配している女官の者に無理を言って夜食を作らせてもらい、彼の仕事を見届け、二人で眠りにつく。 ……あまり、今の私たちと変わらない気がする。 「あの、恋人同士から始めませんか」 「うむ、そうだな」 「じゃあ、抱き締めてください」 「それは駄目だ」 なんでですか、と問う。 「まだ、心の準備ができとらん」 と、答えられる。想像以上にうぶな反応に胸が高鳴るのは、きっと将来妻になる私だけなのだろう。私もまた、彼同様に、自分だけを見てほしいと思ってしまった。 |