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李典

だって、と言ってから言葉が出ることはなかった。待って、と言う間もなく、勝手に私の唇が奪われてしまったからだ。直接伝わる温もり、湿った薄皮の上だけの隔たり。ゆるやかに、離れたくないと言わんばかり堪能されて、ようやく離れた唇から言われたのは「好きだ」の一言。

「あんたが、好きだ」そんなに言わなくても分かってるよ。それと、答えはもう分かっているんじゃないの。

「李典殿の、勘が、嫌い」
「え」
「好きって言わなくても、薄々と理解されるから」

どうせ、いい予感はしてるのでしょう。そう付け足してやると、李典殿は八重歯を覗かせて笑い、私の唇に噛み付いてきた。溶け込む脳内はすでに沸騰しかけていて、私は彼の鎧の冷たさを感じながら、表情を覗き込む。うわ、なんだその幸せそうな顔。

「あー、やっぱ好きだわ」
「そんなに?」
「そんなに、だ」
「……私もだけど」
「殺し文句、どうも。とりあえず恥ずかしいからあっち向いてろ」



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