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夏侯覇


「阿覇」
「やめろって、その呼び方」
「夏侯覇さま」
「それも嫌だ」
「そう言われても、女である以上将軍さまに馴れ馴れしく語るのは……」
「あー、分かったって!」

ようやく呼び方のやりとりが終わって、俺の呼び名は仲権となった。すとんと落ち着いたような感じがする。慣れ親しんでいるような、まるで、愛用の家具を見ているような感覚になってしまった。

「ていうか、俺のこと子供だと思ってるな?」
「私よりは子供じゃない?」
「まぁ、そうだけどよ……」

それこそ、すこし違う気がするんだなあ。俺としては淵師からぐいぐい喋ってきてほしいし、こう、もっと男として見てほしいような……。ときどき父さんにそのことを相談すると、父さんは決まって俺に「郭嘉ってやつがすげえんだぜ!」とか言って、その郭嘉って人の話をしてくれた。
淵師に男として見てもらいたいなら、まず強くなること。余裕を持つこと。いちいち人の言葉に影響を受けないこと。……だ、そうで。

「いやいやいや、無理だろ!?」

俺、何も当てはまらないって。

「何言ってるの……」
「いや、……何でもない」

こういうときに「お前を誘う口実を探してた」とかなんとか言えたら楽なんだろうなあ。一応想像してみる。淵師に笑われて終わりを迎えた想像。やはり、言わなくてよかった。淵師はあまり回りくどい誘いを好まない。うまい飯屋見つけたから行こうぜ、とか、お前の好きそうな小物屋があったから今度どうだ、とか、そういう友達らしく誘うのが一番だ。

「……なあ、淵師って好きなものあるのか?」

その友達らしく誘う作戦を実行するため、まず彼女の好みを把握しなければならないことに気付いた。本当、淵師のことを全然知らなくて、自分でも呆れる。というより、どうして好きになったんだよと疑問にもなる。
本当に好きなのかと確かめるのも含め、淵師の顔を見た。あー、恥ずかしい。

「私の好きなもの? うーん、甘いものとあんずかな」
「へぇ、なるほど」
「どうしたの、急に」
「いや、お前のこと誘おうと思ったんだけど……あっ」
「誘ってくれるの?」

つい言ってしまった失言に冷や汗が垂れる。いやいやいや、何言ってるんだよ。もっと直球で言ったほうが淵師は喜ぶはずなのに。

「誘いたい、と、思ってる」
「えー、嬉しいなあ」
「え、いいのか?」

口がぽっかりあいて、同じように目を見開いてしまう。情けないとは分かっていても心臓が激しく波打っている。落ち着け、落ち着いて言葉を待たないと。

「当たり前じゃない」
「よっしゃ!」
「そこまで嬉しがられると照れるなあ」
「好きな奴からなんだから当然だろ!」
「ん?」


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