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鮑三娘


「あっ、淵師発見! ちょっと聞いてよ〜!」

「なになに、どうしたの?」と、私はいつもと同じ言葉を返した。
週に一度の三娘との女子会(事前の約束は必ずしない)にドキドキする。いつも出会ったら会話をするから、女子会というようなものではないけれど、三娘曰く「なんかお喋りとか談義とかださい」とのこと。彼女が言うなら、ださいのだろう。
随分と遠くから駆けてくる三娘は、私に近付くなり挨拶の抱擁を一つした。

「女子会前の挨拶、忘れちゃうとこだったし!」
「これってすごく大事な感じ?」
「当たり前じゃん! 戦いの前の準備のようなものなんだから」

そう言って、三娘はよほど会えたのが嬉しいのかもう一度抱擁。そういえばここ二週間近く会っていない気がする。立て続けに戦いが続いているし、それはこれからも続いていくようだから、それこそ本当の戦いの準備に忙しいのだ。

「それで、話って何?」
「あっ、そうそう。あのね、関索がさー」

三娘は関索の話をするとき用の声に切り替えて、その場で話しだした。私はそれを熱心に聞き、ときどき助言をしたり、踵を返したりした。今日は関索が迷子になっていたところを助けてくれるお話だった。彼女が言う関索は実物よりだいぶ恰好よく描かれていた。

「でさ、それって超やばいんだって!」
「いいなあ、まさに理想の人じゃない」
「でしょー? ふふ、関索は世界一なんだから!」

どん、と威張って言う三娘。私は何か言葉を返そうと口を開こうとした。しかし、背後で開く扉の音に、思わずぎょっとした。

「淵師殿、鮑三娘殿、場所を変えて話していただけないか?」
「あ、姜維殿……」

そこにいたのは姜維殿で、私は「あっ」と思い出した。そうだった、姜維殿に竹簡を届けに来たんだった。急いで謝りながら竹簡を渡すと、彼は控えめに笑い、「いや、こちらこそすまない」と言って室へ戻って行った。

「なーんか、頑張ってる感じだね」
「うん。無理、してないといいんだけど」
「え? えー? 何、淵師ってばもしかして」
「違うちがう。もう、三娘ってば」

「ふふーん」と、可愛らしく笑った三娘は、私の両手を包み込んだ。そうか、関索はいつもこんなことをされてるんだなあ。

「淵師も運命の人を見つけたら、まずあたしに言ってよね! 応援するし!」
「ふふ、ありがとー」
「いいのいいの。じゃ、あたし行くね!」

ぱっと手を離され、「またね」と言うときには三娘はぱたぱたと慌てて駆けて行った。何かの約束をしているようだった。すこし、羨ましい。私とは約束はしないのにね、なんて、馬鹿みたいだ。
私は誰もいない景色に「またね」ともう一度返して、くるりと後ろを向いて歩いて行った。そろそろ私も運命の人を見つける時期なのかもしれない。

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