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甘寧

「おっ、相変わらずしけた面してんな!」

縁側の石階段に腰掛けて、風景をしずかに見渡していた私の背中を声の主にどつかれた。転げ落ちそうになったから背筋がひやりとしたけれど、それもまた声の主が助けてくれたので、何とも言えない気持ちになった。

「悪いわりぃ」
「もう、死ぬかと思ったわよ」
「死にゃしねえよ。ま、怪我はするかもな」

へへ、と笑って特有の鮮やかな髪を掻いた。まるで心配はしていなく、私がこの階段から落ちても無傷で当たり前と言いたいようだった。例えば打ち所が悪くて剣が握れなくなる、とか、記憶が飛んでしまうなどとは考えていないようだ。

「ほんと、がさつな奴」

石の冷たさを感じながら、空を仰いだ。

「あぁ?」

綺麗な空間に似つかわしくない男の声に、声を立てて笑った。どうせ、風景なんて見ないのでしょうね。お花なんてぐちゃぐちゃに踏み散らかして、喧嘩をするのでしょう。
まぁ、私はそんな甘寧が好きだ。飯より喧嘩、喧嘩をしたら飯、そして喧嘩。新緑の葉のように生き生きとしていて、毎日見ていて飽きない。

「笑うとこあったか?」
「しけた面を少しでも笑顔で補おうと思ってね」

肩をすくませて言い置いた。甘寧は「何だよ、それ」と訝しげに眉を寄せ、つぶやいた。

「その顏」
「おう」
「すごい、しけてる」

それだけ残して立ち上がった。縁側を歩くときに軋む床板の音が四度鳴ったとき、甘寧が背後で「うるせーっ!」なんて喚いていた。
やっぱり、彼は自然の美しさにはうまく溶け込んでくれないなあ。好きな人が来ると、自然を当たり前のように破壊する私も大概だけど。あくびをしながら、そう思った。


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