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法正

「っ、大丈夫ですか」

わ、と背後に倒れかけるところをとっさに法正殿に支えられた。同時に「あぁ、大変だ」と胸騒ぎがした。大きな荷物からいくつか物がおちてしまったが、それさえも拾われる。そんな法正殿が腰を上げるのを見て、私は荷物越しから礼をした。

「あの、ありがとう。助かりました」
「いえ、命の恩人のためです。これくらい構いませんよ」

恩人、という言葉に思わずぎょっとなる。
私が戦場において彼を庇ったあの日から、法正殿はこの調子だ。彼曰く、死ぬまでずっと恩を返すとのことで。「俺はあの日死んだも同然。ですが、淵師殿が庇ってくださり、今ここにいます。なに、礼はたっぷりしましょう」と言ったが最後、私の生活はだいぶ変わった。
歩くたび道が空けられる……は、まだいいとしてだ。侍女の者からは毎日心配され、上官からは怯えられる反面、裏の顔があるなどと言われるようになった。みんな口を揃えていうのは、法正殿が危ないということ。

「淵師殿、どうかされましたか?」

そこまで、悪い人には見えないけどなあ……。

「ううん、なんでもない」
「……そういえば、その荷物、どちらへ?」
「あぁ、これは私の室にちょっと」

がらくたばかりだけれど、なかなか捨てられないから困ったものだ。室が移動するたびせっせか荷物を運んでいる。

「俺が持ちますよ。淵師殿、少しお疲れでは? 今日はゆっくり休んでいてください」
「いや、まだ仕事があるから……」
「そのようなもの、どうとでもなります。なに、俺があいつらに話しておきますよ」
「……そこまで言うなら、甘えようかな。ありがとう、法正殿。お世話になります」
「えぇ、たっぷりお世話になってください」


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