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姜維

最近の姜維殿の様子は見ても痛々しいほどであった。続く敗戦、疲弊した将兵、彼自身もどれほどの悲しみを背負ってきたのだろうか。若い、てばすまないのがこの国の現状だ。それでも徹夜で策を練り、周囲の人々の批評に細々と耐え忍ぶ姜維殿。許してやってください、どうか、救いを彼に与えてください。願って、叶わず、またこの日々の繰り返し。

「姜維殿」
「なにか」
「もうおやめください」
「それは聞けぬ」

冷たい、とても虚しく氷のように人の皮膚のしたの体温を奪う会話をして、私は刃に貫かれたようだった。血は吐かずとも、えぐられた感覚。姜維殿は龍でもない、虎でもない、鳳凰でもない、人間だ。私が傷付いたこの痛みの数百倍も悲しみと怒りを感じているに違いない。

「私は丞相、ーー過去の英雄たちの志を継がなければならぬ」
「過去では駄目なのです」
「では、未来を見ろと」
「いえ、現在、いま、ここにいる私たちの志を継いでください」
「……それはいけない」
「どうして!」

訴えかけると、姜維殿は微笑んだ。久しぶりに見た笑顔はやつれているようだった。彼は荷を背負うには若すぎる。早すぎる。諸葛亮殿に出会い諸葛亮殿と離れたその間は、人の一生よりも短いのだ。その間で彼は諸葛亮という人間を知りすぎた。いや、知った気でいるのか。違う、違う。まだ、知らない。姜維殿は蜀も諸葛亮も、私のことも何も。どうせ、国の地理も把握できていないのでしょう。

「私は、私自身の志が分からないからだ」
「っ、それならば何故戦いを、」
「ふ、答えることもできぬ。情けないだろう、笑ってくれて構わぬぞ」

そうして、緩やかに唇を結ぶ姜維殿。どうしたら過去の栄光をつかもうとひたむきに努力をしていたあの頃に戻るのだろうかと、私は考えた。殴れば良いのか。泣けば良いのか。

「泣かないで、ください」
「泣いておらぬ」
「馬鹿な人」
「そうか」
「馬鹿だから、教えます。私の志は、」

平和な世をあなたの手で築かれると、あなたと密かに逢瀬をすることです。

「まぁ、叶いませんけれど」
「いや、叶わせよう」
「……本当に馬鹿な人」

どうやら、氷は溶けたようだ。滑ってしまわぬよう、濡れてしまわぬよう、あなたは私を支えていて。私はあなたのために乾いた土となりましょう。



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