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曹操

器の中に揺れ動く透明の液体。私の顔が反射している。しかし、それはぐらりと溶け込み、消えてしまった。私は顔をあげる。曹操殿が深刻そうな眼差しで、こちらを見ていた。曹魏にとって有利にたてる名家の息子と、曹魏にあまり貢献のできていない私との婚姻話を持ち運んできたのは彼だ。むしろ、困っているのは私なのに。

「無理に、とは言わぬ」
「はい」
「お主も一人の女子ゆえ、情に秘める男もいるだろう」
「……はい」
「これは独り言だが、わしもお主を失うことが怖いのでな」

だからこそ、心に問うて決めよ、と曹操殿は付け足す。そんなことを言われるだけで、ただでさえ乗り気でない婚姻話を、さらに断りたくなるではないか。内心彼を憎みつつ、与えられた飲み物を喉へと流し込んだ。ぬるりとした液体、今にも吐き出したいほどの甘味が胸を熱くさせた。悪い意味でだ。

「……すこしの辛抱よ」
「これに、一体何が」
「薬を煎じてもらった。なに、心配せずともよい。今はつらくとも、それも過ぎ去れば安らかになる。あとは、わしに任せい」

そう言われ、嫌な予感がよぎった。私は、死ぬのか。
曹操殿の優しさとはまるで酷だ。こうやって胸部から訪れる猛烈なむかつきと、重くなる瞼が死の前兆にしか思えない。どれだけ恩があって深く忠誠心を掲げていても、この仕打ちはどういったことか。

「淵師を一度でも深く思ってしまった罰、なのやもしれぬな」

遠のく意識のなか、曹操殿の今にも消え入りそうな言葉だけが、私には聞こえた。



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