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夏侯惇

※曹操の続き

ばん、と室内に響くほどの大きな音が私の耳に重くのしかかる。何事かと音の方を見てみると、何やら夏侯惇殿が怒りをあらわにしていた。前には曹操さまが立っていて、ここまで二人、ーー特に夏侯惇殿が怒っているのは珍しいものだった。よく、曹操さまが執務中に居眠りをしだしたり、いいとこのお嬢さんに惹かれたりしているのを見て夏侯惇殿は怒っているけれど、今回は違うようだった。

怒った夏侯惇殿は辺りを見回している。そして、幸か不幸か私を見つけた途端歩みだし、確実に近づいてきているのがわかった。もしかして、私が何か粗相をしたのだろうか。そうだとしたら、怒り狂った夏侯惇殿から首をーー、と考えたところで首を振る。

「来い」

一言、投げかけられる言葉。
私は、どれだけ距離が空こうとも気にも留めない夏侯惇殿の後ろで、とぼとぼとついて行った。


やがて、辿り着いたのは彼の室であった。一の将である夏侯惇殿の室へ足を運ぶのは久しぶりのことだった。しかし、そのような感傷に浸る間も無く私は彼に肩を掴まれ、ただこちらを見下げる夏侯惇を見ていることしかできなくなった。
ひどく、荒んだ空気だった。向けられる視線は冷たく、中に熱い感情を秘めたようだった。

「……なぜ、俺に黙っていた」
「なにが、です」
「お前の婚姻の話だ」

私の肩は確かに震えた。その震えに気付かないわけがない彼は、少しさみしそうに眉を寄せ、さらに続けた。

「俺は反対だ。淵師が俺の手から離れんことを望まぬ限りな」
「夏侯惇殿……」

私は、夏侯惇殿の頬を両手で包んだ。骨格をなぞり、彼のぬくもりと存在を確かめるように。その手に、節くれだった無骨な手のひらが重なった。指先に幾重も重ねられた傷痕が痛々しかった。
私は何度か視線をうつむかせた。答えはすでに決まっている。ただ、うまく言葉にならなかったのだ。これほどまでの愛情に、戸惑ったのだと思う。
夏侯惇殿は私の体をきつく抱き寄せた。

「淵師に迷惑などかけたくなかったが……、すまん、俺も一人の男だ。……お前を離すことができん」

耳元で囁かれ、私は体中が熱くなるのを感じた。爪先まで痺れる感覚。彼の髪を撫で、私は微笑む。ようやく理解をした。私は、夏侯惇殿に出会ったときから離れることなどできないと。いまだまとわりつく彼のぬくもりは、多分だけれど、永遠的に私を離さないのだろう。心さえも縛り付けて。



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