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徐庶

「俺なんかが君のとなりにいるなんて……、いや、俺だから、いていいのかな、これからもずっと」
「徐庶殿?」
「あっ、淵師……?」

城内にある庭で徐庶殿が独り言を言っていたため、何気なく彼の様子を伺った。振り向くや否や、突然こちらを見つめてくる彼は「えっと、聞いてた、かい」と途切れとぎれに言葉を紡ぎ出す。
徐庶殿の様子を見る限り、さきほどの独り言は聞いてはいけないものだったらしい。それならば、自室にでもすればいいのに。肩を竦ませ、私は首を横に振った。

「そうか、よかったよ」
「何か言ってらしたのですか」
「……すこし、考えごとをね」

視線をうつむかせ、私の方をちっとも見てくれなくなった徐庶殿の前に腰をおろしてみた。さすがに驚いたのか、彼は私の方を横目で見て、気まずそうに目を逸らす。

「どうして、ここにいるのかな」
「と、突然ですね……。えっと、劉備殿に惹かれたから、でしょうか?」
「あぁ、違うんだ。淵師が、その……、どうして、俺の前に座ったのかと」

あぁ、そのことですね。と、閃く。
私は彼の問いに、一度悩んでしまった。理由もなく座った、といえばおかしいだろうか。とりあえずそのことを告げると、徐庶殿は「君は優しいんだね」と微笑んだ。春の木漏れ日、あたたかな日差しが舞い降りてきたようだった。

「別に優しくなど……。それに、徐庶殿の隣に腰掛けたい人は、きっとたくさんいますよ」
「えっ?」
「今日はこの中庭で休む絶好の日和ですしね」
「……はは。淵師は面白いことを言うんだね。確かに、今日の日差しはとても気持ちいい。日頃の苦悩や悲しみなんて、忘れてしまいそうだ」
「ふふ、忘れちゃってくださいね」

冗談交じりに言うと、徐庶殿は私の方をしっかり見て「ありがとう」と言い放った。低く、掠れがかった声だった。何かが吹っ切れたような声。それでいて、心底からの安らぎを感じる、優しい声音。「どういたしまして」と言う。すると、徐庶殿は、先ほどまで一人で言っていた言葉を、そっくりそのまま私に言ったのだった。



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