チョコレート | ナノ

がらんころんと積み木遊び


出会って抱きしめて、キスしてベッドに潜り込む。おしまい。
そんな関係。愛があるのかは俺には分からない。もちろん、俺は淵師ちゃんが大好きだし早く恋人になりたいなあって日々焦がれてる。ただ、肝心の相手が一歩踏み出せずにいると、思っているのだ。

あの恋愛に疎い若が淵師ちゃんの気持ちに早く気付けと言うのだけれど、気付いていないわけがない。多分、だけどね。淵師ちゃんは俺のことが好きじゃないと思うのだ。これも多分。だって、抱きしめるとき俺のからだの中で身をよじるし、キスするときも一瞬顔を強張らせる。ベッドには入るけどそれ以上はちなみにない。いつも断わられる。俺もしたいわけじゃないし、好きだから、どちらかと言えば大事にしていきたい。でも、報われてない気がするんだ。


そんなある日、若から「キスをしたぞ」と報告メールがきた。あの人、諸葛亮先生を怒らせて課題増やされたはずなのに何してるの。「よかったね」と返事をしたら、「チョコの味がするのだな」と言ってきて、もしやと俺のお菓子箱を見ると空っぽになっていた。
別にいい。気にしてない。若っていつもプリンを食べたか忘れて二個食べちゃうし、アイスも一日三本は食べるし、その癖運動するから細マッチョだし。彼の健康が損なわれていないなら、いくら食べても許せる。
それより、若もとうとう経験したのか、と気になってしまっていた。その気になりは行動になり、俺は早速淵師ちゃんに電話をかけた。すぐに出てくれた。

「ね、今会える?」
「う、ん」
「ごめん、もしかして用事かなあ」
「ち、違う。待ってるね、私」
「あっ、君のお家ってよくわかったね。偉いね!」
「……ありがとう」

 ▽

淵師ちゃんに出会って、まずそのからだをゆっくり引き寄せた。ほのかな温もりに胸が締め付けられる。けれど、彼女はやはり身をよじらせた。
からだを離すと、部屋に招かれ、静閑とした室内で彼女の名前を何度も呼んだ。くすぐったそうに俺に擦り寄ってくる。かわいいなあ、なんてベッドに腰掛けて思っていると、淵師ちゃんは慌てて側から離れてしまった。

「どうしたの?」
「……なんでも、ないよ」
「……そっか」

それ以上は怖くて聞けない。臆病者だから仕方ないよ。
淵師ちゃんの頬を撫でて、静かに顔を近づけると、触れるだけのキスをした。すぐに離れ、もう一度しようとしたら、一瞬だけ肩を震わせているのがわかった。

「やっぱり、やめる?」
「どうして?」
「うーん、君ってばいつも嫌がってるかんじで……、やっぱり、好きな子だから大事にしたいしね。準備OKになるまで、俺待つからさ」

そう言って、淵師ちゃんの頭を撫でた。彼女は何やら物言いたげな眼差しでこちらを見てくる。どうしたの、とは敢えて聞かない。きっと、何か言ってくれるだろうと待った。

「違う、の」
「え?」
「嫌がるんじゃなくて、私、その、経験ないから……。キスも下手じゃないかな、とか、心配しちゃって」
「え、え、本当に?」
「ほ、本当だよ」

俺は何やら大きな勘違いをしていたようだ。眼前で顔を真っ赤にして俺を見る淵師ちゃんが何よりもの証拠で。彼女の手に触れると、目を伏せたのがわかった。赤く熟れた唇に、長く震える睫毛がやけに鮮明に映った。今までが鳥目のようだったのかもしれない。すっかり暗闇の中にいて、俺は勝手に答えを出して納得していたみたいだ。
そう思うと嬉しくなってしまった。唇を重ね、ぎゅっとからだを抱きしめる。やはり身をよじっている。

「ねぇ、どうして逃げようとするの?」
「逃げてないよ……?」
「でも、身をよじってるじゃない?」

淵師ちゃんは、微笑んだ。

「馬岱くんは背が高いから、抱きしめられると私の顔が隠れて息が苦しくなるだけなの」
「そうなの? なんだか、俺早とちりしちゃってたみたい。ごめんね!」
「ふふ、これから気をつけてくれたら……」

とんと俺の肩に頭を傾けて、目を瞑る。広がる柔らかい髪の毛からは、甘いチョコの匂いがした。淵師ちゃんの方から彼女の机まで目線をよこすと、どうやら勉強道具とチョコレートが。せっかく勉強をしていたのに、邪魔をしてしまったみたいだ。
申し訳なくなって、未だ目を瞑る彼女の頭頂に口付けを落とした。すぐに目が開いて、こちらを見ると、今度は淵師ちゃんの方から口付けをしてくれた。あくまで、頬に。

「唇もいいのよ? ねえねえ」
「そ、それはまだ駄目」
「ざーんねん、それじゃまた今度ね」

立ち上がると、俺は机に置かれたチョコを一粒摘まんだ。それを口に放り入れると、これが俺の望んでいた味だと、頬が緩んだ。

「若ってば、俺のチョコ勝手に食べたんだよ」
「それは悔しいね」
「だからさ、ん」
「えっ」

もう一つ摘まんで、若が経験したというチョコ味のするキスをした。ふわりと溶けるのが案外いいかもしれない。ごくりと飲み込むと、離れ、彼女は顔を真っ赤にして布団に潜り込んでしまった。その布団の上からぽんぽんと叩くと、どこに触れたかはわからないけど、彼女が悲鳴をあげたため、今日は命が持たないと言って帰されてしまった。

帰りにチョコと、プリンを三つ、それとアイスを五本買っていくと、なんと残ったのはアイスのはずれ棒五本だけだった。



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