10000企画 | ナノ


▼ だからこそこの唇は渇くばかりなのだ

なまえが他の男に振りまく笑みは、男たちの瞳を猟師のように変えさせる。いつまでそうやって笑っているつもりか。彼女の腕を掴み、部屋へ連れ込むとなまえは俺の名前を呼びながら逃げ出そうとした。

寝台に敷かせ、彼女に覆い被さる。
逃げられないように足の間に体を挟み、片腕を掴む。怯えることもなく、こちらを見るなまえの瞳は怒りに満ちていた。

「……何をしていた」
「喋ってただけ、だから」
「ほぅ、そう言う割にはやけに嬉しそうではなかったか」

耳元で囁くと、なまえは肩を震わせて首を振る。少し体を引かせると、なまえの衣服からちらつく膝辺りへ手を這わせた。

なまえの滑らかな肌に手を沿わせる。腕を掴んでいた手を離すと、腰を深く曲げ、なまえの柔らかな髪へ触れた。指を通し、手のひらに広がらせる黒の線は艶と輝いている。ふと、腰を曲げたことで近くなった彼女の表情を伺った。
瞳には涙が滲んでいる。どうしたものか、俺をこうさせているのは恋人同士だから仕方のないことだというのに。

「どうしたの、元譲」

濡れた唇から放たれる疑問の声。だが、そんなものよりなまえのか細く震えた声音にどうしたと聞きたいものだ。

「お前を抱くだけだ」

太もも辺りをまさぐりながら言う。
なまえの息が熱くなってきていた。それなのに、まだ反発をしようと俺の方をきつく睨んでくる。太ももから手を離し、寝台に敷かれるなまえの上にのしかかった。顔を近づけ、唇に触れる。しっとりと濡れた唇は、接吻を潔く受け入れてくれた。
薄く開いた唇を割り、舌を絡ませるとなまえは俺を強く押し退けようとした。

「今は嫌、なの」
「他の男を思ってか?」
「そんなことないって……」

なまえは俺から目も合わせず、言い放つ。今彼女は誰を思っているのか。俺以外の男に幸せを貰っているのだろう。なまえの前髪を掻き分ける。圧倒的な敗北感が襲ってきた。瞼に口付けを落とし彼女から離れる。寝台に腰掛け、寝転んだままのなまえとは目を合わせないようにした。

すると、後ろから布団を退かせる音がしたと思えばなまえの細い腕が俺の首に絡んできた。背中に触れる体温と、熱い息になまえの怖さを知った気がする。

「……とんだ女だ、お前は」
「……うん、そうかもね。でも、元譲が一番だよ、私」
「ふん、当たり前だ」

首を捻り、耳元に顔を押し付けていた彼女の頬を包むと、その唇に接吻をした。今度はすんなりと受け入れてくれるどころか、自分から舌を絡ませてくる。
寝台に敷かせ、彼女の衣服に手をかけた。
その腕がぱしっと掴まれる。

「好きだよ、元譲」
「……そうだな、俺もだ。なまえ」

耳元で優しく囁くと、なまえはくすくすと横で笑った。彼女はきっと、明日は他の男に抱かれているに違いないが、俺はその行為を邪魔しに行くのだろうか。




なんと言われようとなまえだけは手放したくないのだ。





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