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「あ、楽進殿!」
遠くから背姿が視界に入り、とっさに名前を呼んだ。遠くからだったけれど、気が付いた楽進殿は私を見て手を振る。近付いたら、待っていてくれるかな。ほんの少しだけ期待をし、私は彼の方へ小走りをする。すると待つどころか、楽進殿の方からも近付いてくれた。
「なまえ殿、おはようございます」
「お、おはようございます」
よくある挨拶をし、宮内の廊下の端に寄った。
「あの、私になにかご用でもありましたか」
楽進殿の困ったような声が聞こえ、私は顔を上げる。彼自身も何やら急いでいるようだった。そういえば、朝からよく見かけない兵たちも見たような。「なまえ殿」ともう一度声をかけられハッとなる。あなたと喋りたかったから、とでも言えたらいいのに、私は言葉に詰まり、
「なんとなく、です」
と答えた。
数秒間を置き、「そうでしたか」と楽進は答えた。
「何かあるのでしたら言ってください。それでは、今からすこし大事な用があるのでお先に失礼します」
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