「なまえ、今日は雨が降るから洗濯物入れとくぞー?」
あくびをしながらそう言うと、キッチンの向こうからなまえのか細い声が聞こえた。きっと、冷蔵庫の整理でもしているのだろう。
昨日俺がおむらいす? とやらに挑戦したとき、賞味期限ってのが一年も切れたけちゃっぷが出てきたのが原因だ。
「このけちやっぷ白いの浮いてるな」
「ぶっ、あっ、ごめ。李典、もう一回言って?」
「え、なんだよ。俺の発音は大目に見てくれるんだろ?」
「そうだけど、ほんとお願い!」
なんて、なまえが必死に懇願してくるものだから。
「けちやっぷ」
「ふっ、ふふっ、ごめん、けちやっぷ……けち、ふふ」
「お、おい! 怒ったからな!」
その後、確かなまえに新しいおむらいすを作ってもらったのだ。大変美味しゅうござんした。テレビってのを見て、覚えた言葉。彼女にそんな感想を言うとチキンライスを吹き出すし、汚いから言えない。
だからと言って、簡単な言葉は使いたくないのだ。なまえが可愛いなって思ったら俺は可愛いと言いたい。やばいなんて使いたくないものだ。やばいは本当に大変なときに使うものだと思っている。例えば、張遼の好きな柿の種を食べたときだ。
「うっわ、これは早く洗濯物入れねえと一雨くるな……」
洗濯バサミから服を一つひとつ外し、カゴに放り入れる。おっと、これは見てはいけない。いわゆる下着ってやつだ。見てはいけないなんて言いつつ見えたが、気にはしてな……して、ない。
「ちょっと李典!」
「どわっ」
「きゃああ李典のした、ぎ!」
「おい、やめろ! 投げるなよ!」
こうやってベランダで争うのも日常茶飯事だ。一度服が落ちたことがある。なまえの好きなワンピース。そのときは彼女はほんと悲しんでて、俺もいてもいられなくなった。だから、その日は晩飯でひき肉九割のハンバーグを作ってあげたはず。そのときもけちやっぷで、ごめんって書いたら、なまえは泣きながら食べてくれた。
「へへ」
「鼻の下伸ばさないの!」
「いでっ」
ここで暮らしてまだ時間は経ってないけど、張遼も楽進もいるし、正直離れたくないって思う。
「んー、なまえが好きだぜ、俺」
「ここベランダ!」
「けちやっぷ」
「ふ、ふふっ」
とりあえず洗濯物を取り組んだら、なまえと初めての相合い傘をして晩ご飯の支度でも買いに行きたい。
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