やたらと体に密着してくる服を着て過ごす。彼女にとってそれは当たり前のことなのだが、それがどうもむず痒い。楽進くんはガタイがいいからね、なんて言われたけれども、はて、どういうことか。
「楽進くんの筋肉触っていい?」
「き、恐縮です」
「それ、いいのか分からないけど触るね」
服の上から二の腕を撫でられる。さすがに胸ではなくて安心……ではなくて。
なまえ殿は興味深そうに私の筋肉に触れている。今私が着ているのは、なまえ殿が買ってくれた黒の無地のシャツ。シャツというのはなかなか発音が難しい。
いや、日本語なのにカタカナの言語が多いのが不思議だ。
「なまえ殿、その、くすぐったいです」
「あっ、ごめんなさい」
ぱっと手を離されると、なまえ殿は満足そうに微笑んだ。彼女はそういえば筋肉というのがあまりついていない。城にいた女官や芸妓の者よりわりとふくよかな感じだ。
「私も触っていいですか」
「えっ、天然なの、駄目だよ」
「残念です」
ゆるやかな体の曲線をまじまじとみるとなまえ殿に目を塞がれた。彼女は私よりも身長が15センチほど低い。前、なまえ殿と外へ出掛けたとき、周りの人はみんな背が高くて、驚いてしまったのを今も覚えている。
戦場というものがないなら、私のこの身長の低さはなんなのだろうと。
「楽進くんは背が高いね」
「えっ」
「まるでヒーローみたいだよ」
あと、私の胸を鷲掴みするこの感情はなんなのか。先ほど彼女に言った身体を触りたい、という発言を撤回したい。頭が沸騰しそうだ。
「が、楽進くん大丈夫?」
「いいいいえ、なんでもありませんっ……」
「顔が赤いよ?」
そうやって、おでこを触ろうと手を伸ばすとき、少し彼女が背伸びをした姿が可愛かった。
「可愛い?」
「えっ?」
「なまえ殿は可愛いのですね……!」
「は、いっ?」
あっ、なまえ殿の顔が真っ赤になってしまった。熱があるのかと手のひらを額にあてると、彼女はさらに耳まで赤くして私から目を逸らしてしまう。
「この、天然め」
「天然パーマは李典殿の特権ですからね、一番槍は逃しました」
「訳分からないよ、楽進くん」
あぁ、次は顔を覆われてしまった。
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