▼ 01
「私なんかがあなたの隣にいてよろしいのでしょうか……」
ぽつりと、自信なさげに楽進殿は呟いた。まったりとソファーにくつろぎ、借りてきたDVDを二人で見ていたときのことだった。
きっと、私がみたかったラブロマンスのシーンに影響されたのだろう。楽進殿はまるで子犬のように俯いている。垂れた犬耳としっぽが見えるよ楽進殿。撫でてあげたいな。うーん、怒るかな。
好奇心につられて撫でてみた。
ふわふわの茶色の髪は、触ってて心地よい。ぽふぽふと空気を抜いて、その後は流れに沿って撫でる。
「何をなさってるのですか?」
「お手」
「は、はいっ」
「あ、するんだ」
出された手に、彼の手のひらが重なる。
暖かくて、大きい手のひら。握り返し、両手で包むと、楽進殿は慌ててしまった。
「楽進殿は私の隣にいつもいてくださいね。離れても、一番槍ですぐに駆けつけてください」
「もちろんです!」
ご主人様!
なんて続くのかと思いきや、続くわけもなく。楽進殿は打って変わって、とびきりの笑顔を浮かべていた。
手のひらを解放すると、私は彼に巻き戻しをしていいか聞く。喋ってしまっていて、すっかりお話を見ていない。
「手が寒いなあ」
巻き戻しが終わり、ほのかな期待を込めて言う。横目で彼を見た。
「あっ、膝掛けはいりますか?」
「……ううん、大丈夫」
もちろん、期待は裏切られて。
内心悲しみながらも、テレビの向こうでハリウッドスターが恋人と結ばれたから許すとしよう。互いに抱きしめあいながら、あぁ、キスしてしまった。
こういうシーンは、一人だと感動したりキュンとくるけど、誰かがいると気まずくてたまらない。
楽進殿はどんな顔をするのだろうと見てみる。その瞬間、私の手に彼の手が侵入してきた。おどおどとしていたものの、とうとう、きつく指同士が絡み合う。
「楽進殿……!」
「調子に乗ってしまいました……。あ、その! 嫌なら離します!」
「い、嫌じゃないです!」
むしろ嬉しい!
ぎゅ、と握り締める。
寒いなんて冗談だったのに、これは彼なりの勇気だったのだろうか。真っ赤になっている。むしろ、こちらが恥ずかしい。
「あっ」
また大事なシーン見てない。
楽進殿に合図を送ると、彼は困ったように笑い、巻き戻しをさせてくれた。
私たちの恋は、ラブロマンスにもならない馬鹿げたものだ。むしろ、ラブコメになったら光栄なぐらい、ありふれた恋愛をしている。
「このような恋、私だったならば、一秒でもあなたと離れたくなくてできません」
なんて、楽進殿が言うものだから。すぐに「はっ、自分はなんてことを!」って後悔し、謝ってきたけれど。
私たちには離れなくてはならない理由なんてないから、映画みたいに離れることもなくずっといられるのだろう。
私は楽進殿に体を密着させると、そっと彼は肩に頭をこてんと乗せてくれた。
(このまま、おやすみ)
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