短編 | ナノ

 01


私邸に置かれる箪笥の上にある、木彫りの彫刻品を見ながら、いつこれがここに来たのかと考えた。繁華街に出たときに、異国の物が時々売っているが、その時にでも買ったのだろうか。いや、それとも淵師が自分で作ったのだろうか。そんな姿を想像するが、それはないと思った。

椅子に腰掛けたまま、卓上に広がる地図をそっとなぞる。貴重な紙を使ってまで記された、私邸の母屋、見張り台、台所の図、またそこから城、拠点に戻るまでの太陽が降りる数が書かれているものだった。


「元譲殿、何をされてるんですか?」

ふと、背後から淵師が椅子の肘掛けに腰をおろし、夏侯惇の肩に手を置いた。

「ん? いや、なんでもない。……夕餉の準備は済んだのか?」

夏侯惇は、そんな淵師の腕に自分の掌を重ね、そう問う。

「はい。そんなもてなしは出来てないんですけど……」
「ふん、無理はするな」

ぽん、と頭に手を置くと、淵師は顔を赤く染めながら怒っていた。夏侯惇はふんと鼻で笑うと、横で拗ねる彼女の肩を引く。それに、淵師はやはり頬を染め、黙って彼の横に続いて行った。



* * *


「そういえば、あの彫刻品はいつ入ったものなんだ」

目の前に広がる、湯気をたてた晩御飯を眺めながら夏侯惇は椅子に座った。手前に座る淵師は、あぁ、と思いながら少し残念そうな表情をする。

「あれは、一月ほど前のものです」
「……そうか」

一月前は、ちょうど自分がここを出て、城に戻った時の頃だった。夏侯惇は、そういえばこうやって二人だけで食事をするのは久しぶりのことだと思い出した。彼女自身、武人として曹魏軍に手を貸すことはあったが、この頃は平穏な時が流れているため、曹操に手を貸さなくても良かった。それ故、一人の時間が圧倒的に多いことがあった。

「すまん……俺がお前を一人にさせておるな」

夏侯惇は、そんな自分を責めるように拳を握りしめ、悔しそうに言い放つ。

「気にしないで下さい。これでも、時々元譲さんに会いに行ってたじゃないですか。今回の遠征も、私の案が少しでも役に立ったみたいで良かったです」

苦笑を浮かべながら、淵師は彼をなだめるように言う。

「だが……。そうだな、今回の遠征で孟徳も安心している。こうやって俺がここにいるのも、お前のおかげだろうな」

体を伸ばし、淵師の頭をくしゃくしゃと乱す。へへ、と小さく笑うと淵師は恥ずかしそうに俯いた。それに追い打ちをかけるように額に口付けを落とすと、夏侯惇は小さく笑い、

「冷めては美味い飯も不味くなる」

と、言って体を戻した。
元気良く淵師は頷くと、先ほどのことに口元を綻ばせながら食べ始めた。







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