▼ 02
「元譲さん、明日からまた行っちゃうんですか?」
多少狭くはあるが、寝台の上に二人身を寄せ合い就寝準備をしていた。淵師は夏侯惇の深衣をぎゅっと握り締め、弱々しく呟く。行ってほしくない、とも取れるその言動に夏侯惇は、不謹慎とも思いながら口元が緩むのを隠せなかった。
目の前で瞼に影を作り、その長い睫毛を震わせる彼女を強く抱き締めると、囁くように言い放つ。
「孟徳に休みをもらった」
そう頭を撫でながらいうと、淵師は彼の逞しい背中に腕を回し、嬉しそうに笑った。こつんと額を胸に押し付け、あまりにも嬉しいことに叫んでしまいそうだった。
「お前の側にずっとおれんとは、なかなか厳しいものでな」
ふん、と夏侯惇は苦笑する。
婚姻を約束し、縁を結んだにも関わらず、多忙な日々は二人の時間を作ることは難しいことだった。しかし、だからこそ互いの大切さを身に染みるほど分かっている。
「私、さみしくないです」
「……そこは可愛く淋しいと言ってもらいたいところだが」
「……我慢します」
「ふん、それでいい」
夏侯惇は静かに身を離し、淵師の額に唇を落とす。そのまま目尻に下りて行き、互いが接吻を交わすと同時に、そっと目を閉じて行った。
(君に僕)
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