短編 | ナノ

 01



雨に降られてしまった。
寝坊した自分が悪いのだが、一応走って学校へ来たのだ。途中は曇り空で、降らないと思っていたら見事大雨。

おまけに遅刻と来た。下駄箱で大きなくしゃみをしたら、たまたま通りかかった夏侯淵先生にくしゃみより大きな声で笑われてしまった。それを聞きつけた曹操先生も、笑いを滲ませながら「夏侯惇の傘を貸すから今日は休め」と私に言った。自分のではないところが、また彼らしいと思う。

私としてみれば休めるのはありがたい。ノートぐらい甄姫か文姫に申し訳ないものの、借りればいい。損だと思いつつ、家に帰って優越感に浸りながら映画でも見てやろう。
そう思い、下駄箱でびしょ濡れの靴を履いていた。とんとんとつま先を叩き、カバンを肩にかける。

「これはこれは、淵師じゃないか」
「賈ク先生」

後ろから声をかけられ、振り向くと賈ク先生が立っていた。腕を組み、私をじっと見ている。今来たところなのか、服装は私服のようだ。ぐっと、ときめきを抑え、笑む。

「……ははあ、雨に降られたようだ。冷えたら風邪を召される。俺の上着でもどうかな?」
「……いえ、大丈夫です。曹操さんに許可貰ったので帰ります」
「おっと、それはいけないね。年頃の女の子が一人旅とは……」

彼は私に近づき、濡れている腕を掴んだ。

「ぬ、濡れてますから……それに、賈ク先生には仕事があるでしょう」

そう言って、優しく振り払う。
やれやれと困ったように目を逸らす賈ク先生は頭を掻いて、こちらをちらりと見やった。

「待て、正直に言うならあんたを家に送らせてもらいたい。曹操殿には許可済みだ。むしろ送らせてもらわないと、俺が困るね」
「脅しみたいじゃないですか……もう」

賈ク先生からの予想外の理由に驚いたが、変な表情を見せたら彼は調子乗ってしまう。嬉しかった。賈ク先生と二人で帰れることが何より。どうして、わざわざ付き添ってくれるのだろう。
疑問の目で見ると、あははあ、と賈ク先生は笑った。どうでもいいか、と私もつられて笑う。わずかに胸が暖かくなるのを感じた。ま、と切り出した賈ク先生は私のびしょ濡れのシャツに触れ、肩を引く。

「え、えっ、賈ク先生?」
「こうしないと冷えるだろう。それに……見えてて困るんでね。下着」
「し、した、したっ……!?」

ばっと胸元を抑え、羞恥で顔を俯かせた。
思ったよりも暖かくてごつごつとした手のひらが肩にきていて、緊張もしてしまう。何を喋ったらいいのだろう。そう考えている間に無言になってしまったが、とりあえず玄関を出た。

「あ、あの賈ク先生は何で登校をなさって……?」
「徒歩であんたと帰りたいところだけど、あいにく俺は車だ」
「私と? あの……ごめんなさい、座席が濡れちゃうかも。そ、それに今も肩を抱かれたら先生の服が……」

申し訳なく思い、離れようとした。だが肩に置かれた彼の手が離れることはない。導かれるまま、職員用駐車場へ向かう。こういうときは本当に強引だ。そのことに、頬が緩みそうになる。





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