▼ 01
くしゃ、と紙を丸めてくず入れに放り入れた。壁に跳ね返って、それは見事に入らなかった。それを見て、めんどくさいと思いつつも重たい腰をあげて拾いに行く。ここまでは、俺の日常の切り取り部分。
今俺が丸めたのは進路調査書だ。
陽虎学園も気付けば二年目の冬に入り、生徒会総選挙やら球技大会やらが物凄い早さで流れていってしまった。
あと残されたのは、卒業式だけである。しかし、それは自分には何も関係がない。
部活の先輩がいる場合は出席しなければならないのだが、水泳部には三年生の先輩はいないし、そもそも俺自身、近頃顔出しをしていなかった。
そんなことを考えて、丸まった進路調査書を拾う。こんな紙切れに人生が決まってるのかと思えば反吐が出る。
途端に、がらら、と進路室の扉が開かれた音がした。
(もう来ちまったってのかい)
はぁ、とため息を零して怒られるのを覚悟して顔を上げる。進路課の呂蒙先生はこういう時に長ったらしい説教をしてくる人だった。一応、普段はいい人である。この学校は先生が少ないため、呂蒙先生は進路担当と世界史担当だった。
「あれ、凌統何してんの」
「え?」
顔を上げた先には、英語担当であり担任の淵師がいた。
白地のワイシャツには水色の縦ボーダーが引いてある。上に寒さを凌ぐためベージュのカーディガンを羽織っていた。
胸に妙な緊張感が生まれる。
寄りにも寄ってこいつが来るなんて、と心の中で何故か呂蒙先生を恨んでしまった。
「あー、そっか、あんたまだ進路決まってなかったもんね」
「淵師こそ何だってここに?」
「うわ、呼び捨て。失礼ね、礼儀を習いなさい。……まぁいいわ。なんか呂蒙さんに悪餓鬼をどうにかしてくれ、とか言われちゃってさ。成る程、あんたなら納得だわ」
「失礼はどっちだっての」
くず入れの横に呆然と立ち尽くす俺の横を当たり前のようによぎり、がたがたと椅子に腰掛ける。かた、とテーブルから音がして、そこにはホットココアとコーンポタージュの缶が置いてあった。
(そのチョイスおかしいでしょ)
そう思いながらも、俺も彼女の前に腰掛ける。
「どっちがいい?」
「どちらでも」
「じゃあ、あたしがコーンポタージュ」
言ったがすぐに、淵師はかしゃっと音を立ててコーンポタージュを開けた。彼女は飲む前に振ることはしない。俺もしない。
「あんたが俺の人生決めるっての?」
「それでいいなら、とっておきの人生にしちゃうわよ。ま、人生……というより、進路は人に決められるもんじゃないけどね。進学するにしても、成績が足りなくて行けなかろうが、行きたいなら頑張ればいいわけだし」
「進学、ねぇ……」
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