キス企画! | ナノ

所有


とく、とく、と一定の拍子で心音が鳴る。ともに添い寝をしようという郭嘉殿の考えから、私は言ったとおり寝台に並んでいた。昼頃までは二人で眠っていた。そのあと、先に起きたのは私だった。心地よい温もりを手放すのも惜しく、だからといって寝台の中で相手を起こさず遊べるほど器用ではない。辿り着いた結論が、郭嘉殿の心音を聴くことなのだった。

こうして彼の心音を聴いていると落ち着いた。おかしいことを言うのかもしれないが、すべてを委ねる感覚が身体中を包むのだ。

「満足?」

と、そこで突然の掛け声に、私は彼から離れようと身を引いた。鼓動が跳ね上がってしまい、口からとびだしそうだった。かわりに、思考が脳内から綺麗に消え去ったようだ。私は必死に、いつから起きていたのだろう、もしかして、私がずっと胸に耳を当てていたことが、ーーなどと思い浮かぶすべての考察を張り巡らしていた。

「っ、ごめんなさい、起こして」
「しっ、動かないで」

身を引いたけれど、私の頭は郭嘉殿によって優しく押さえつけられたため、身動きをとることを封じられてしまった。彼の不明な行動にいちいち調子が狂ってしまう。焦ってしまうのだ。気づけばいなくなっている。気づけば、隣にいる。そしてその焦りを、いつも郭嘉殿は見抜くのだ。くすくすと頭上で笑っている。落ち着いた雰囲気が室内に漂っていた。まるでこの室だけは平和で暖かいようだった。ほんのり甘いのが、私たち以外の人からしたら嫌かもしれない。
「ずいぶんと私の心音に興味があったようだけれど……、私は生きてたかな」
「あ、当たり前です」
「はは、そんなに必死に答えてくれて嬉しいものだね」

郭嘉殿は私の髪を梳くように指を通す。一本いっぽん、触れ合うように。こうして優しく触れられるときが何よりも好きだった。つい、うとうとしてしまう。いや、わざとそうさせているのか。顔をすこし上へ向け、郭嘉殿の表情を覗いた。余裕の微笑を浮かべている。私からの視線に気付くと、隣に眠れるように彼は体をずらした。

「今度は、私がなまえのようにしたいな」

ぐい、と腰をもたれ、私と視線が同じになるよう引き寄せられる。近付いた郭嘉殿の表情はひどく美しかった。息をする仕草さえも虜にさせる。息を飲み彼をじっと見つめた。
そのまま誘われてしまい、一度口づけをかわした。柔らかい感触に脳が麻酔をかけられたようだった。全身を溶かすほどの熱が押し寄せてくる。いまだ郭嘉殿は腰元をまさぐっているから、そのせいもあるだろう。

唇が離れると、彼は私を寝かせたまま自分だけが体を起こした。胸元に耳をあてるため、ほんの少し動いただけだった。左胸に、こてんと頭を置かれる。自然と見下げるような立場になってしまった。見下げるように郭嘉殿を見つめるのは初めてだった。さらりと広がる柔らかな色素の薄い髪を見つめていると、変な気持ちになった。とてつもなく胸が焦がれるようだった。いとおしい、というべきか。

「……うん、聴こえる」
「私の心音、ですか?」
「そう、あなたの生きている証」

そんな風に言われると恥ずかしくなるしたまらなく嬉しくなるものだ。私は、生きている。郭嘉殿も同じように。そしてこの先も生きていく。正直にいうと実感がわかない。彼の未来に私はいるのだろうか、と不安になってしまう。この不安さえも見抜くのは彼で、すこし先に歩いて、いつも待っていてくれるのだ。
こうやって彼との未来を想像していたら、不意に、郭嘉殿は私の胸元を覆う衣服をはだけさせた。

「な、郭嘉殿っ」
「大丈夫、すぐ終わるから」

言う前に、彼の唇が私の胸元をなぞる。唇は湿っていて、さらに中途半端な温もりが感情を高ぶらせてきた。ぞわりと体が粟だつ。ぼんやりとした意識のなか、その行為は確かに彼の言った通りすぐに終わった。

「何をしていたんですか?」
「すこし、あなたの胸に悪戯をね」

なんだろう、と上半身を起こして胸元を覗く。そこには赤い痕がくっきりと形をおこしていた。浮かび上がる姿は花みたいで、そのくせ私を恥ずかしくさせるものだから笑うことしかできなかった。
郭嘉殿の方を見ると、彼も上半身を起こして私の方をみていた。視線が絡むと、さらに笑いがこみ上げてくる。自分が彼のものになったみたいで嬉しいなんて、あまりにも自虐的すぎる。それなのに、彼は私の心を深いところへ突き落とすように、優しく、儚げに接してくるのだ。

「なまえ」
「郭嘉殿、」と、言葉の途中で口づけをされた。言葉はいらない、と言いたげな様子に、私は彼の髪に指を通す。それこそ赤子をあやすように。やがて寝台に押し倒されてしまう。「郭嘉殿」また、名前を呼ぶ。

「どうかしたのかな」

と、郭嘉殿は答える。
私はその表情を見ると安心して、顔を横に振り「なんでもない」と微笑むのだ。



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