キス企画! | ナノ

満足



ただいま、と扉を開けてみると、私がただ望んできた可愛い奥さんの「おかえりなさい」の声。晩御飯の匂いに、ぱたぱたと廊下を走る奥さん。不意に胸が締め付けられて、生きてきて良かったと思ってしまう。

「今日もお疲れ様です、奉孝さま」
「待って、まずはなまえを抱き締めたいから」

コートに手をかけるなまえを、何か言う前に抱き寄せる。暖かくて美味しそうな匂い。今日の晩御飯はなんだろう、と想像しつつなまえの腰に手を回した。

「キスもよろしいかな?」

顎に手をかけ、親指で頬を優しく撫でる。顔を赤くしてなまえが頷くと、少し、触れるだけのキスをした。
すぐに離れると、体が自由になったなまえはコートに手をかける。まだ慣れないのか、顔は真っ赤のまま。いい奥さんを貰ったものだ。それはそうだ、曹操殿のお気に入りの秘書だったもの。

「奉孝さまってば、ち、近いです!」

コートをクローゼットへ片しに行くなまえの首元に、後ろから顔を埋める。ぱたぱたと足が早くなると、残念そうに彼女を離し、見つめた。そうするとなまえは歩くことをやめて、私のしたいようにさせてくれるから、非常に良い子だと思う。
もちろん、抵抗してくるなまえも良い子だ。何をしても、彼女なら可愛いと思えるのは、きっと毒されているから。

「うん、いい匂いがするね」
「晩御飯はまだ出来てませんが……、良かったです」
「はは、晩御飯もそうだけれど、私はあなたからいい匂いがする、と言いたいな」
「ほ、奉孝さま」

帰ってくれば、惚気ばかりの雰囲気に家が包まれる。それでいい。なまえの頬に触れ、キスを落とす。柔らかい頬は吸い込むように受け入れた。紅潮していて、林檎みたいだ。

「夜が楽しみだよ、なまえ」
「ゆっくり寝かしつけてくださいね?」
「おや、寝られると思っているのかな」
「……正直、思いません」

なまえが晩御飯の支度の続きをし始める横で、私はシャツを脱いでいく。彼女がこちらに振り向くとき、予想外の姿に悲鳴をあげて顔を塞いだ。

「あれだけ見ているくせに、面白いね」
「奉孝さまこそ、少しは恥ずかしがってください!」
「恥ずかしがる、か。むしろなまえにはもっと見てほしいのだけれど」

置かれたシャツを着て、なまえの後ろへ歩み寄る。髪に指を通すと、びくりと肩が強張っていて、その肩を優しく揉んだ。

「あ、上手ですね奉孝さま」
「愛する奥さんを疲れさせるなんて、いい気がしないな」
「ん、奉孝さまこそ疲れておいででは?」
「私はあなたと眠るだけで疲れが吹っ飛ぶ気がするから、大丈夫だよ」

すす、となまえの髪を横にかき分けると、白い肌がよく見える。そこに欲情するように唇を落とすと、彼女は菜ばしを持ってこちらを振り返った。

「さ、刺すところだったじゃないですか!」
「私か、晩御飯をかな」
「もうっ……」

俯くなまえの顔を強引に上げると、その瞳を覗き込む。頬にまた触れるだけの口付けをした。それだけでなまえは嬉しそうに笑ってくれる。不意に閉じ込めたくなった。彼女、もしかしたら食材を値引きされただけでこんな笑みを浮かべているのではないかと。

「早くこの生活に慣れてね、なまえ」
「……努力、します」

その答えだけで、とりあえず今はお腹いっぱい。なまえが料理を作る背中を見ていると楽しくなってくる。あまり器用でないくせに、一気に料理を作るものだから慌ただしい。そのくせ、何かを手伝おうとすれば嫌がるのだ。

小さく、聞こえないように笑うと、彼女はどれだけ忙しくともこちらを振り向いてくれた。適当に何かを囁くと、とうとう菜ばしを落としてしまった。

あれ、今何を言ったのだろうか。





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