祝福
栗色の柔らかい髪が風になびいて、こちらを振り向くとその愛情を帯びた瞳が私を見つめてくれる。せめて、愛情というものが、あくまで恋愛的なものだったら最高なのだけれど、そこまでわがままは言えない。
「おはよー、待たせてごめんね!」
「おはようさん。俺も今来たところだぜ。んじゃ、行くか」
そう言って子上は私と並んで歩きだした。今、私は子上と登校をしている。いつもは元姫や子元がいるのだけれど、今日は二人とも生徒会の仕事が忙しいらしく先に行ってしまった。一応彼も生徒会だ、とは思ったものの、二人だけで登校という日もあってもいいか、とむしろ嬉しく思う。
「子上は生徒会の副会長だけど、行かなくて大丈夫なの?」
「ま、大丈夫だろ」
「めんどくさいからじゃないよね」
「そ、そんなことはねえよ!」
そのとき、ぼそりと「めんどくせ」と言ったのが聞こえたため内心苦笑い。子元が生徒会長をやめたら、次期生徒会長は子上だと言うのに。秘書の元姫と賈充さん、委員の仲権くん、文鴦先輩はきっと大賛成。でも、きっと、会計の鍾会と諸葛誕は嫌がるだろう。
「お前は生徒会入んねえのか?」
「あー、そんな柄じゃなくて」
「残念だなあ。なまえが監視役として入ってくれたら俺も真面目になるかもしれねえのに」
ちらちらとこちらを見ながら言う子上。どう見ても本心が丸見えだ。そう思い、彼の横腹をひじで小突くと平謝りをされた。
子上は私よりも頭二つ分くらい背が高い。それは卑怯だ。文鴦先輩も高いけれども、もっと鍾会や仲権を見習うべきだと思う。
「でもよ、生徒会入ったらみんな喜ぶのは本当だぜ? 俺も嬉しいし」
「ボランティア部をやめろって?」
「いや、その逆だ。ボランティア部と掛け持ちしとけって話。ま、考えてくれよな」
子上は私の髪をわしわしと撫でながら、とびっきりの笑顔を浮かべた。太陽がのぼってきた朝、それは眩しすぎる。頭まで熱が上がってきた気がした。
「じゃあ、今度入部届け出すの、ついてきてほしい」
「よっしゃ! 約束だぜ」
ふわり、と子上は私の額にキスをした。これは、どういうことか。私だけが顔が熱いみたい。子上は平然としているから悔しかった。
またひじで横腹を小突いてやる。
「何でだよ!」
「記念に小突いただけ」
「はー、なんだそりゃ」
子上はめんどくさそうに頭を掻く。気が付けば学校へ辿り着いていた。
校門の前に諸葛誕がいて、互いに目を見やると、全力で校門を抜ける。なんだか笑いが止まらなくなって、後ろから「待ちなさい、司馬昭くん!」と駆ける諸葛誕の顔を思い出すと、つい楽しくなってしまった。
下駄箱で息を整える。
子上はずっと笑いっぱなしだ。
「すっげー、楽しかった!」
「うん、私も!」
「やっぱり生徒会にお前は必要だな」
そうして、子上は微笑む。
とうとう頷くと、子上は嬉しそうに私の乱れた髪をさらに乱した。
生徒会室へ入ると尋問をされたのは、子上だけで。めんどくさそうに返事をする子上が、やたらとかっこよく見えたのだった。
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