God of the love ran away.
「賈クは本当に恋愛ごとには疎いんだね」
冬休みが終わり、体育館での適当な挨拶が終わったとき、郭嘉は用務員室へ来てそれを伝えた。
あの日、淵師は結局一人で帰ってしまった。車でないと帰れない距離ではない。その情報をどこで手に入れたかは分からないが、郭嘉の言葉は深く賈クに刺さった。
ソファーに腰掛ける賈クは、何も知らんとテレビをつける。が、郭嘉にコンセントを抜かれてしまった。
「いい加減あなたの態度には飽き飽きしてきたよ、賈ク」
「……何が言いたい?」
「私がもし、淵師に"昔"から恋をしていたと言えば、あなたはどうするのかな?」
「……知らんね」
「おや、そう言って結局夏侯惇殿に取られたのだけれど」
賈クはぎょっとした。なぜ、そこまで知っているのか。彼が顔を上げたとき、既に郭嘉は姿を消していた。
(あの問題児……)
テレビをもう一度つけようとすれば、既にコンセントが抜かれていたことに気づく。ため息を落とすと、賈クは何かを考え、そして立ち上がった。
* * *
教室で王異と会話をしている淵師の元に、郭嘉はやって来た。普段の行いで王異に軽蔑の目で見られたが、それは置いておく。
「淵師殿、少しお時間をいただけるかな?」
「あ、はい。わかりました!」
そう言うと、淵師は何事もないかのようについていく。王異に「すぐ戻るから」とだけ言って、二人は教室を飛び出した。ため息を落とした王異だったが、彼女は静かに微笑んだ。
「そろそろ我慢ができなくてね」
「どうしたんですか?」
「あなたに言いたいことが二つある」
「まず……」と口を開くと、郭嘉は人が全く来ない保健室へ淵師を連れてきた。保健室には先生は常にいない。怪我をすることもない鳳凰学院の保健室はサボるとき用にあるといっても過言ではなかった。
淵師は胸がざわついた。一体何が起こるのかと。至近距離へ郭嘉の顔が近付いた。
「人に対しての気持ちを問いただすと、正解は最初の言葉である確率はとても高い。何度考えようと、好きだと思えば好きであることには変わりないものですよ」
「ち、近いです郭嘉先輩……」
「一つ、賈クに対しての気持ちは、学生である淵師が答えること。過去は関係ない。よろしいかな?」
郭嘉は淵師から身を引き、微笑んだ。体を解放された彼女は、いまいち
郭嘉が何を言っているか分からなかったが、よく昨日のことを思い出せば簡単なことだった。淵師は郭嘉を見る。
「決まったようですね。では、次は……そうだね、淵師は今から用務員室へ行くこと。ほら、早く」
「……あの、郭嘉先輩。どうして?」
「頑張る友は少し抜けてるから、その抜けてる部分を私が補うだけだよ」
郭嘉は淵師の手を掴み、すぐ離すと名残惜しそうにこちらを見ながら保健室のベッドへ向かう。残された彼女は、息を整え、ただ扉を見つめた。用務員室へ向かうのだ。ゆっくり歩き出すと、がららと音をたて保健室から出て行った。
廊下を歩きながら、昨日のことを考えていた。賈クは臆病だ。そんな彼になんてことを聞いたのだろう。賈クにとって、先生と生徒という立場は壊すことができないのだ。
保健室からすぐ近くに用務員室はある。ドアノブを持ち、一息ついて、その扉を淵師は開いた。
(恋の神様は逃げ出しました)
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