戯言スピーカー | ナノ



 


「そうそう、それで退路を絶つと、挟撃もされずに済むんだ」
「あっ、なるほど」

腰に手を回され、些か近過ぎる気もするが、私は郭嘉殿に戦術を学んでいた。
今回は彼の私室で、文机に積み上げられた執務を二人で終えたあと、こうやって暇を弄んでいる。

彼に身体を引き寄せられ、腰に手を回されていなければ最高だ。
もぞもぞと撫でられると、気が気でない。くすぐったさと恥ずかしさで集中なんかできないのである。

「す、少し離れませんか?」
「せっかくあなたと気持ちを確かめ合ったんだ。離せないな」
「せめてくすぐったいので、腰に手を回すのは……」

駒を置くのにも、文机に身体を預ける郭嘉殿を越えなければならない。
もちろんさらに密着するわけで、彼の心地よい匂いやたくましい胸板に当たってしまう。

「淵師、顔が赤いね。ほらほら、集中して?」
「誰のせいで……」
「おや、口答え、かな。お仕置きをご所望なら、ぜひ」

そう言って、静かに顔を近付けると口づけをされた。上唇を食むと、最後わざと音を立てて郭嘉殿は唇を離す。
頬が上気しきって、たまらなく愛しさと、ここで突き飛ばしたい気持ちが湧き上がった。
後者はできるわけがない。むしろ、もっと彼といたくて仕方がないからだ。

「少し休もう」
「ん、はい」

腰はがっちりと掴まれたままだ。
郭嘉殿は寝台に運んでくれるのかと思いきや、意外と長椅子に腰掛ける。
その上にすっぽりと乗せられた。彼と向き合う形で、何より彼の足を私が挟んでいるのが嫌だ。
いや、その行為が嫌なわけではない。ただ、愛し合う人たちはこんなことを当たり前のようにするのだろうか。
郭嘉殿の性癖とかだったらどうしよう。

「おろしてください!」
「駄目だよ。ほら、もっと寄って」
「んっ……!?」

片手で腰を抑えると、もう片方で首の後ろを引き寄せられる。
逃げることもままならないまま、彼に唇を奪われてしまった。酸素を必死に取り入れようと、息を吸う。しかし、吐き出すこともせず、また重ねられた。

郭嘉殿に願い事を教えたあの日から、手加減をまったく知らない気がする。
朝おはようと言ってもらったら、そのまま彼はまた眠りについてしまう。お昼はこの通り。夜はもっとひどい。
それでも、抱いてもらったことはないのは、彼なりの気遣いなのだろうけど。

(こんなんじゃ、心臓がもたないかも)

唇を離されると、艶やかな笑みを浮かべて郭嘉殿は私をただじっと見つめた。
すっかり視線は彼のものだ。

「あなたが欲しい」
「えっ」

突然言葉を放つと、彼は私を抱っこして寝台へと連れて行く。

「え、それって、郭嘉殿!」
「私なりに我慢はしてきたつもりなんだ。あなた以外の女性と戯れることも控えたし、淵師と二人きりで口付けばかりしても、これでいいって制した」

でもね?
そう言って、押し倒す。
獣の目だ。私は獲物で、彼は猟師。

「あまりにもいじらしい反応をするけど……責任、とってくれるかな?」
「……手加減は、してください」
「さあ、淵師が可愛いと駄目かもしれないね」
「……奉孝殿」
「はは。もう駄目だ」

鎖骨に音をたてて口付けを落とされる。
不安でいっぱいだ。鼓動の音が聞こえてないか心配。郭嘉殿は頬にかかる髪の毛をよけてくれる。
そのまま、導かれるように頬と目尻に唇を落とし、私のそれと重ねた。

「お昼だから声を出すのは気をつけて、ね?」
「も、もう!」

結局郭嘉殿に知恵を教わってない!
しかし、ぎらつく彼の目を見ると、抵抗はできず。渋々彼のされるがままに、私は目を閉じた。


(知恵比べ指導)