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今日は蔵の住んでいるところで花火大会がある。
花火大会といっても、普通の夏祭りと大差はないらしい。
しかし偶然にも今日俺の住んでいるところでも夏祭りはあり、蔵が千葉に来てくれると言っていたが、いつも俺のところに来てばかりだから今日は俺が大阪に行くことにした。
昨日から蔵の家に泊まって、昼間はちょっと買い物に出かけりたりし、夜は夏祭りという行程になっている。

そして、夜―――…

そろそろ出かけようと蔵に声をかけようとしたら、蔵はまだだと言う。
早く行かないといい場所で花火も見れないし、屋台の食べ物も無くなっちゃうのに。

「何で行かないんだ?早く行こうぜ」

「まだ準備があんねん」

そう言うと蔵はクロゼットを漁りだした。
取り出したものは、浴衣だった。それも2着も。
浴衣で行きたいって言ってくれれば、持ってきたのに。

「春風はこっちの柄な。」

渡された浴衣の柄は至って普通のものだった。
蔵のことだから、女子が着るような柄の浴衣とか着させようとするのかと思ってたけど、深く考えすぎたな。
蔵に着るのを手伝ってもらって、やっと浴衣に着替えることが出来た。


家を出た頃は既に日は沈んでいて、会場は人が溢れかえっていた。

「春風、手ぇ繋ご」

「えっ、いいよ別に…」

「ま、嫌や言うても手ぇ繋ぐけどな」

蔵は俺の手を掴み、強引に人混みを掻き分けていく。
しかし人が多すぎて繋いだ手も今にも離れてしまいそうで。

「ちゃんと俺の手握っとりや」

「お、おう…」

俺の手を引っ張り一歩先を歩く蔵は何だか頼もしく見えた。
普段は俺に甘えてばかりだったから、尚更。
やっとの思いで人混みから抜けると、そこは山道の入口らしき場所だった。
手前までは祭りの提灯で明るかったが、その先は何もなく、真っ暗で不気味だ。

「この先にな、めっちゃ見晴らしのええ場所があんねん」

蔵は俺の手を握り進もうとするが、一歩が踏み出せず、先に進むのを躊躇ってしまう。
が、蔵は俺のことを気にせず山道に入っていった。
進んでいけば提灯の明かりは届かなくなり、やがて足元も碌に確認できなくなるほどだった。
それに舗装されてなく辛うじて歩けるといった道だ。
サンダルで歩く上に普段から着慣れてない服で行動するのは危険すぎる。
そんなのお構いなしに蔵は歩いていく。

山道を歩き始めてから何分経ったかな…
だんだん道が開けていき、石でできた階段を登りきると、ちょっとした広場があった。
そこは高台になっていて祭り会場を見渡すことができるほどで、花火を見るのには持って来いの場所だ。

「すご…あんな遠くまで見える」

「言うたろ?めっちゃ見晴らしのええ所連れたったるって」

少しの間広場から祭り会場を見渡していたらドーンと音が鳴り、花火の打ち上がりはじめた。
高台から見る花火は地上で見るときとは違って見える。

「綺麗だな…」

思わず素直な感想を口にしていた。
小さい声だったし蔵には聞こえてないと思っていた。
すると蔵に両肩を掴まれ、互いに向き合った状態になる。
花火と月の明かりに照らされて蔵の顔がはっきりと見える。
恥ずかしくなってきて顔を逸らそうとしても何故か逸らせない。
こんな状況だ、何をされるのかなんて薄々判ってる。
蔵が口を開いた。

「…春風のほうが、その…綺麗やで」

やっぱり。予想はしていたけど、面とむかって言われると恥ずかしい。
さっきから赤かった顔がさらに赤くなるのが自分でも分かった。
そう言った本人の顔も真っ赤だった。

「…蔵のほうが綺麗だろ」

「そんな事ない。春風のほうが可愛ええもん」

「綺麗と可愛いのって違うんじゃねぇの?」

なんかそんなやり取りをしていたら自然と表情は綻んでいて、いつの間にか2人して笑いあっていた。

「蔵ありがとな。こんないい所連れてきてくれて」

「別にええよ。春風にこの景色を見せてあげたかったから…んっ!」

蔵の言葉を遮るようにキスをする。
突然のことだったから蔵もちょっと戸惑ってる。

「…また来年も連れてきてくれるか?」

「もちろん!春風がよければ、祭りの日やなくても連れてきたるで!」

その言葉がすごく嬉しくてまた俺からキスをした。

「春風、今日は素直やな。いつもは自分からキスすることなって滅多にあれへんのに」

「一年に一度ぐらいはありだろ!」

「俺としては毎日素直な春風でおってほしいんやけどな〜」

2人で笑いあって高台から見える風景を見る。
きっと来年も同じ感じなんだろうな、なんて思いながら祭り会場をぼんやりと眺めた。
今から来年の祭りが楽しみだ。








遅すぎる夏祭りネタ。
書いてる分には楽しかったです!
基本1日では書き上げれないので、所々文法が可笑しいのはいつものこと←