WB | ナノ
※白石視点。




全国大会が終わり、部活も引退して、受験勉強に打ち込む日々が続いている

それは春風も同じで。
会う機会は格段に減っていた。
せやけど、毎日メールなり電話なりしてきてくれた。
ちょっと恥ずかしがりながら電話してきて、ほんま可愛ええ。
その日学校であったこと、後輩の話とかいろいろ…
決して話が尽きることはない。
気付いたら日付が変わっている、なんてこともある。
次の日眠たいけど、春風からの電話・メールは俺の毎晩の楽しみだったりする。
だけど、ある日の夜…

「…かかってこうへんなぁ…

きっと受験勉強が忙しいんやろ。
俺も頑張らなあかんな。
そう思いながらも、かかってこないかな、なんて思っとった。
結局、その晩ケータイが鳴ることはなかった。

次の日、その次の日も電話はかかってこなかった。
そんなに寂しいなら自分から電話すりょいいんやけど。
でも春風は頑張って勉強しとるんや。
邪魔しちゃあかんよな。
我慢や我慢。

そのまた次の日、ずっと春風に電話しようかしまいか迷っとった。
そのせいか、その日は散々だった。

授業中ぼーっとしとる時に限って先生に当てられるし、体育のバレーでは顔面ブロックしてまうし、とことんついてへんわ。
クラスメイトの謙也からも心配されてもうた。
四天宝寺の「聖書」と呼ばれとる俺がこないな凡ミスばっかしとるんやから、心配になってもおかしくないか。

授業も終わり、帰路につく。
ああ、今日は勉強する気になれんなぁ…
家着いたらすぐ風呂入って寝てしまおうか。
春風に電話しようと思ったけど、明日にしよう。

家に着くと俺は自室に戻らず、そのまま脱衣所に直行した。
下着は干してあったからそれでええわ。

湯船に浸かってる間もずっと春風のことを考えとった。
春風に会いたいなぁ、なんて思っても叶わぬ夢だ。
今会いに行っても春風に迷惑がかかるだけや。
はぁ、と本日何度目かの溜め息を漏らす。


風呂から上がっても家の中はしーんと静まり返っている。
そういや、今日家におんのは俺だけやったな。
晩飯は宅配ピザで頼もうか、そんなことを考えながら、階段を上っていく。
そして自分の部屋のドアを開けると、身体中に衝撃が走った。
誰かに力強く抱き締められているようだ。

「おかえり、蔵」

その誰かとは紛れもない今、俺が一番会いたかった恋人で。
俺は春風より強く抱き締め、

「ただいま」

と言って、何週間かぶりのキスをした。