あの一件以来、千歳が何かとつきまとうようになってきた。 サボる時も、昼飯食べる時も、気付いたら背後にいる。 まぁ、学校にいる時間の大半は屋上で過ごしてるし、俺がいる所なんてすぐ分かるか。 正直、鬱陶しいだけだ。 そろそろ別のサボり場所でも探そうかな… ――そんなある日… 「そういや、もうすぐ中間テストたいね」 昼飯の焼きそばパンをかぶりつきながら千歳がそう呟いた。 「…嫌なこと思い出させるな」 「学生やけん。嫌でも通らにゃいかん道ばい」 言ってしまえば、俺は勉強はからっきしだ。 授業サボってるから当然といえば当然。 …でも、こいつも授業よくサボってるから俺と同じじゃないのか? 「アンタは勉強しなくていいのか?」 「俺は勉強しなくても出来るから。それにアンタじゃなくて千歳って呼んでほしか」 最後の言葉はこの際無視するとして、こいつはサボってても人並みの成績は取れているってことか。 「分からんところばあったら、教えてあげったい」 「別にいい。余計なお世話だ」 俺が屋上から出ようとすると、 「放課後生徒会室で待っとるねー!」 なんて言ってくる。 なんだかんだ言って、放課後生徒会室に行く俺も大概お人好しだ。 ――放課後… 古めかしい両開きの開け、生徒会室に入る。 千歳はやはり生徒会長の机に座っていた。 あんな見た目や性格でもやっぱり生徒会長なんだよな… 「春風くんいらっしゃい。まぁとりあえず座りなっせ。飲み物持ってくっけん」 千歳に促され、近くのソファに座る。 ソファの座り心地も良く、この部屋だけ別次元って感じ。 「飲み物、ココアでよか?」 まだ熱いココアを差し出される。 甘さも控えめで、甘いのが苦手な俺でも飲める味。 千歳はテーブルに大量の教科書を置き、 「さ、勉強会始めったい!春風くんはどこが分からんと?」 こう言う。 授業なんてほとんど受けてない俺にそんな質問を投げかける。 正直、全部分からない。 でも、こんなこと絶対に言いたくない。 「別に分かんないところなんてねぇ」 「またまたそぎゃんこつ言って〜素直になりなっせ」 「だからねぇって」 このままじゃ会話が無限ループしてしまう。 どうにかしてこの流れを断ち切りたいが、自分から断ち切ろうとはしない。 だって俺が断ち切ったら、千歳の言うことを聞くってことになるだろ。 そんなことは絶対に嫌だ。 「…このままじゃ埒があかん」 そう言うと今まで向かい側に座ってた千歳が俺の座ってる方にきた。 すると、あろうことか千歳は俺を持ち上げ、膝の上に座らされた。 そして、背中からむぎゅっと抱き締められた。 「なっ…!////」 「素直にならんと、このまま勉強するばい」 千歳はこの体勢のまま教科書を開き始めた。 「この部屋は俺以外にも何人か出入りすったい。もしかしたら、この格好見られちゃうかもしれんばい」 「はっ…!?////」 「ま、俺は全然構わんけど」 なんて笑って言ってくる。 冗談じゃない、不良の俺が生徒会長と、ましてや男とこんな格好してる見られるなんて。 全くこの男は何を考えているんだ。 「いい加減素直になりなっせ」 より抱き締める力が強まる。 「……授業サボりまくってる俺が分かるところなんてあるわけねぇだろ…」 「やーっと、素直になった」 すると千歳は俺を膝から下ろし、俺の横に座った。 そしてポケットからメガネケースを取りだし、メガネをかけた。 何だかいつもと違ってかっこよく見えたなんて、口が裂けても言わねぇけど。 |