小説 | ナノ
「はぁ…もう、今日はなんて日だっ!」

文句を言いつつかれこれ1時間、この学園の敷地内を歩き回ったが、一向に目的地に着かない。
いい加減疲れてきたし、部活動も終わりの時間が迫ってる。夕方とか夜の校舎ってなんだか不気味だし、早いところ任務を終わらせて帰りたい。

そう思ったことが発端で自身で引き寄せたか、あるいはただ単に私が狙われたのか…

私は絶賛本気の鬼ごっこ中です。
誰か本当に助けて。



そう、事の発端は掃除の時間中に起こった。
この学園に入学してから一週間が経過し、ぎこちないながらも友だちと呼べる子も出来た。

帰りの会が終わり、今週は私のグループが掃除当番であったため、みんなでいそいそとゴミを集めていた時だった。
所謂ドジっ子属性のクラスメイトが自分の箒に足を取られてしまい、後ろによろめくと、ちょうどそこに年季の入ったブリキバケツが転がっていて…あっ、と思った時には、教室中にバケツの悲鳴が響き渡っていたのだ。
しかも不運なことに、その際に足を捻ってしまったようで、掃除は中断してみんなで保健室まで連れて行くことになった。今頃は手当が終わり、親御さんのお迎えを待っている頃だろう。

その後、私たちは職員室へ向かい、事の詳細とバケツについて話した。担任はバケツを倉庫から取ってくると言ってくれたのだが、他の教員から会議がもう始まることを指摘され、申し訳なさそうに私たちにその任務を託して行ってしまった。
仕方がないのでジャンケンで勝った人がバケツを取ってくる、負けた人たちは残りの掃除を終わらせることになり、中学に入って初めて知った漢気ジャンケンに見事勝利を収めてしまった私に、任務が引き継がれた、という訳だ。



とまあ、このように実況してみたりと現実逃避をしているが、実際はかなりヤバい状況だ。
そりゃあ1時間も中高の校舎内を上から下まで行ったり来たり、さらには校庭や中庭なども歩き回り、さっきはちょうど校舎に戻って階段を登っていた最中だったのだ。
女子中学生、それも入学したばかりのほぼ小学生に毛が生えたようなものである私は、当然のことながらとても、とーっても疲れていた。

(ダイジョウブゥ?)

なんて、片言な、いかにも可笑しいと分かる声音で話しかけられても、いつもなら無視してた。
今までだって、そうやって自分の身を守ってきたんだから。今日だって、これから先の未来でだって、この世ならざるものは完璧に無視して、普通の人として完璧な人生を送れると思っていた。

それなのに…私はなぜかその時、まるで何かに導かれるかのように振り向いてしまったのだ。



そこからの私は、今の今までのろのろと足をすすめていたのが嘘のように、一段飛ばしで階段を駆け上った。
その怪異は聞くものの背筋を凍らせるような笑い声をあげ、(オイカケッコォ?マケナイヨォー)と追ってくる。
大変迷惑だしやめて欲しいが、追われたら逃げるしかない。


3階まで駆け登ったとき、ふと、噂好きのクラスメイトから聞いた話を思い出した。

「ねぇ、知ってる?この学園の噂話!ほら、有名な“トイレの花子さん”がね、旧校舎の3階の女子トイレの一番奥にいるんだって!」

なんでも一つ願いを叶えてくれて、その見返りに何かを奪われる。


なんとも胡散臭い上に、本当にいるのかも怪しい。
だが、今は超のつく緊急事態である。
トイレなんて逃げ場のない場所に行くのは嫌すぎるし、ここが旧校舎なのかすら定かではない。が、このままでは捕まるのも時間の問題だ。
後ろのやつが(ネェネェ、ツカマエタラァ、ナニシテアソボゥカァ)などと恐ろしいことを叫んでいるので、こちとら藁にでも縋りたい気分なのだ。
女子トイレに飛び込み、勢い余って窓に激突しそうになりながらも、ようやく辿り着いたそのドアに向かって右手を伸ばす。


コン、コン、コン


それはまるで、あちらの世界と干渉するための、挨拶のようだと頭の片隅で思ったが、恐怖と焦りにかき消される。
きっと私は、今まで訪ねた人たちの中で最も早く、そして必死に、縋るようにこの言葉を叫んだだろう。



「花子さん、花子さん、いらっしゃいますか!?」



これは、七不思議が7番目、トイレの花子さんこと、花子くんと、普通でありたかった女の子の、出会いの物語。


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