小説 | ナノ
あなたを守りたい
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『あなたは絶対、私が守るから』
昔
俺より5つ年上の彼女から言われた言葉が
今もなお、俺を悩ませる
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俺はいつも任務に行く前、というよりも朝起きたらすぐに、彼女のしかめっ面を拝むことになる。
彼女曰く、俺の身に危険が迫ったら、どこにいてもすぐに分かるように、人には見えないくらいの薄い結界のようなものを張っているのだとか。
なんでも、その作業がかなりの集中力を要するらしく、こんな顔になってしまうらしい。
…初めて見たときは、何か機嫌を損ねてしまったのかと、かなり焦った。
しかし、俺ももう大人の男だ。
他里に知られるような強い忍にもなった。
残念なことに、今も彼女のほうが強いけど…
ま、それは彼女が規格外だということで、考えないようにしている。
今までは俺の方が弱く、守られることが多かった。
それでも俺は、守る対象としてしか見られていないのが、嫌だった。
彼女は…真奈は、俺の好きな人だ。
俺は、真奈のことを守りたい。
だから俺は、これからは俺が真奈を守る、と伝えようと考えた。
それなのに…
もう俺を守らなくていい、と少し遠回しに伝えたら、この世の終わりというような顔をして、俺を見て、泣きそうな声でこう言った。
『…カカシは、もう…私のこと…必要じゃ、なくなった…の?』
その時俺は、必死に違うと言い聞かせ、すごく嬉しいが、毎日大変じゃないかと思っただけだと伝えるしかなかった。
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こうして、今でも朝の儀式は続いている。
俺を心配してくれているのは分かる。
それはもう痛いほどに分かっているつもりだ。
あれは、私が守るという衝撃発言をされた頃、俺は修行中に足を滑らせて、崖から落ちそうになったことがあった。
その時俺はまだ未熟で、水面歩行もできなかった。
そんなヤツが崖から落ちれば、かすり傷どころでは済まない。今でも残るような大怪我をしていただろう。
でも、その時。
あの頃既に任務に就いていた真奈が、瞬間移動で助けに来たんだ。
おかげで俺は怪我一つなく、今も五体満足でここにいる。…だが、あの時の俺は、任務を放棄したのかと彼女に怒った。
そしたら彼女は、影分身を残してきたから大丈夫だと俺に伝えてから、驚くべきことを言い放った。
『それに私は、どんな状況だったとしても、カカシを助けに戻るよ。たとえそれで、任務が失敗したとしてもね』
俺は忍びを目指していたし、掟が絶対で、掟を守ることは大事なことだと思っていた。
それなのに、任務を影分身に任せて、あっけらかんとそんなことを言う彼女に、俺は唖然と惚けることしかできなかった。
『カカシが忍者を目指していて、そのためにたくさん努力をしていること。忍びにとって、掟は絶対だということ。そして…カカシが、掟を守ることは大事だと思っていることは、もちろん知っているよ。でもね…私の最優先事項に、掟なんて、入っていないの』
任務達成率100%の真奈が、掟よりも大事にしていること…とても気になるその言葉に、俺の頭はようやく機能し始めた。
俺が聞く態勢に入ったことに気づいたのだろう。真奈はにこりと微笑みながら言った。
『あなたのことよ、カカシ。任務よりも、何よりも…私にとっての最優先は、あなた』
鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていただろう俺を見て、真奈はさらに笑みを深めた。
『掟を守ることは大事なことだと思う。任務を成功させることも、確かに大事。でもね…私は、大切な人を大事にできないようなヤツには、なりたくない。私は、大切な人を守りたい。そのために強くなったの。…任務のために、大切な人を諦めなければならないような掟なんて、ないほうがマシよ』
こんなのが上層部に聞かれたら、何かしらの罰を受けるかもしれない程のことを言っているのに、彼女は笑顔のままで…
任務よりも、大切な人を優先する
そう堂々と言いのけた彼女は、キラキラとしていて、いつもより輝いてみえた。
そしてこの言葉は、その後の俺の忍道に深く関わってくる。
『あなたは絶対、私が守るから』
そう言った彼女は、怪我がなくてよかったと、俺を強く抱きしめた。
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「はい、おしまい!んじゃ、今日も一日頑張ろう!」
昔のことを思い出しているうちに、いつのまにか儀式が終わったみたいだ。
彼女のキラキラとした笑顔は、
昔も今も変わらない。
俺は昔から、この笑顔に弱い。
何より、彼女が悲しむようなことはしたくない。
この悩みの解決方法は、至極簡単なものだ。
俺自身が、俺を守り、身を案じてくれる優しい彼女の心ごと守れるような男になればいいだけの話だ。
しかし…俺はいつ、真奈を守ることのできるような、強い男になれるのだろうか。
それが俺の、最大の悩み
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