小説 | ナノ
_設定_
かっちゃんと幼稚園からの幼馴染である女の子
心優しく、言葉遣いなどが丁寧で、とてもかっちゃんの幼馴染とは思えないほどのいい子←w
家が隣同士で、ベランダをつたってお互いの部屋を行き来できるくらい近い
親同士仲が良く、家族ぐるみの付き合いがある
個性は水操作
近くに水が無くても、大気中に漂う水素と酸素を結合させるなどして水を生成できるため、どこでも水を操れる
池や川などがあれば、もっと大量の水を操ることができる上に、水操作は使い方次第で岩をも砕く、とても強い個性である
どちらも強い個性を宿しており、良きライバルとして共にヒーローを志し、雄英高校に入学を果たす
これは、性格も個性も正反対な2人が紡ぐ
甘酸っぱい恋のお話
________
「おい!おいってば!」
幼稚園が終わり、お母さんと一緒に家に帰っておやつのベビースターラーメンを食べ終わった私は、自分の部屋でおままごと遊びをしていた。
すると突然、かつきくんの声が聞こえてきた。
今日はかつきくんが遊びに来ているというわけでもないし、まして私たちは特に仲がいいわけではない。
私は驚いて、急いで部屋を見渡したが、かつきくんの姿はなかった。
気のせいかなと思って首を傾げていると…
「おい!こっちだよ!こっち!!」
また、声が聞こえた。
これは気のせいではない、と改めて声の主を探す。
なんだか声がくぐもっているけど、心なしか声音がイラついてる感じだ。いつも少し気の短いかつきくんのことだから、これ以上待たせたらきっと…
「こっちだって言ってんだろ!!窓だよ窓!!!」
「えっ?わっ!ご、ごめん!」
いつもはお隣さんと近いからって締め切っているカーテンが少し空いていて、そこから向こうのベランダから覗いている、すんごい顔をしたかつきくんが見えた。
私は慌てて立ち上がり、窓に駆け寄ろうとした。
しかし、直前まで私1人で5役のおままごとをしており、今さっきまでヒーロー設定のお姉さん役を5分ほど正座で熱演していたのだが、正座だったが故に、足が痺れて窓にたどり着く前に盛大に転んでしまった。
「ッ!?…おい!!」
幸い、クッションがあるところに顔面着陸し、事なきを得た。だが、足はまだ痺れており、少し動かすだけでジーンとなってしまい、上手く動かすことができない。
『かつきくんが呼んでるし、早く立ち上がらないと』と考えながら、痺れに悶えていた、その時。
「おい!どうした!?」
夕陽の光の中から、かつきくんが私の部屋のベランダに降り立った。
さっきの怖い顔とは打って変わって、まるで、私のことを心配してくれているかのような表情をして。
「足が痺れちゃって…」
私はかつきくんの登場に驚いたが、心配させないよう、今の状況を伝える。
しかし、かつきくんは眉を寄せて首をかしげるだけ。
そこで私は、驚き過ぎて、窓が閉まっているのを失念していたことに気づく。いつもの声量じゃ、私の声はかつきくんに届かない。
私は一呼吸おいてから、今度は大きな声で伝える。
「足が!痺れちゃって!」
「…は?痺れた!?んだよ、どんくせぇな。びっくりさせんなよな!」
「ご、ごめんね!」
あまり正座で長い間座っていたわけではなかったからか、だいぶ痺れが取れてきた。
足を動かせるようになった私は、急いで窓の鍵を開ける。
すると、かつきくんがいきなり「ほらよ」と、左手をぐーにして私に突き出してきた。
私はどういう意味か分からず、同じように左手を握り、かつきくんのぐーに拳を合わせてみた。
すると、バッとかつきくんは手を引っ込めてしまう。
「ッバカ!ちっげーよ!!手を出せ!手を!!」
「えっ!う、うん…」
私はそういうことか、とようやく合点がいった。と同時に、少し不安に思った。
なぜなら、男の子がそのようにして何かを渡そうとしてきたときは大抵昆虫とかだったため、いい思い出がないからである。
だが、待たせてしまってはかつきくんの機嫌がまた悪くなってしまうと考えた私は、覚悟を決めて、恐る恐る生け贄を差し出した。
「おらよ」
乱暴な言葉遣いとは違い、私が差し出した手の上にポトっと普通に置かれたのは、芋虫やアリなどではなく、3日前、私が幼稚園でどこかに落としてしまった髪留めの飾りだった。
それは、透明感のある黄色い小さな星が2つ、大きいのと小さいのがくっついている髪飾りだ。私は星が大好きだからと両親がプレゼントしてくれた、私の大事な宝物。
3日前の午前中、お庭遊びが終わった後トイレに行った時に、鏡を見て無くなっていることに気付き、お昼を食べ終わってから先生と一緒になって探したけど、全く見つからなかった。
すぐに見つかると思っていた私はすごく悲しくて、みんなの前でたくさん泣いてしまった。お母さんが迎えにきてからも一緒に探したけど、やっぱり見つからなくて。
それでも毎日、時間の許す限り探し回っていた、あの髪飾りだった。
「っこれ!私の宝物!」
「いつも絵本を片付けてるカゴの中にあったぞ」
「え!私、ずっとお外を探してた…」
「知ってる。いっつも泣きながら外ばっか探してんだもんな。少しは中も探しとけば、もっと早く見つかったかもしんねーのに、バッカじゃねーの?」
確かに私は、直前までお庭遊びをしていたため、外に落としたものだと思い込んでいた。
だから外ばかりを探していたのだ。
それでは、いくら外を探しても見つからないはずだ。
確かに、かつきくんが正しい。
でも、『言い方!それに、バカって何さ!!』と思ってしまう。
「つ、次はちゃんと中も探すよ!」
「バーカ!その前に、次がないように気をつけろよ!」
「わ、わかってるよ!」
「ハッ!どーだか!」
さすがに普段優しくて穏やかな人でも、バカ、バカと何度も言われれば腹も立ってくる。ましてや、大人のように我慢することが難しい子どもでは、例え相手が宝物を見つけてくれた恩人だとしても、怒りをコントロールすることは不可能である。
「そんなにバカって言わなくてもいいじゃない!」
「お前がバカなことしてるからだろ?」
「だって外にあると思ったんだもん!」
「だからそれがバカだってんだよ!」
「なっ!!バカっていうほうがバカなんだよ!」
「はあ!?なんだと!」
「かつきくんのバーカ!」
「っ!!この!」
かつきくんは怒って、さっき私が顔面着地したクッションを投げてきた。子どもの力ではあるが、至近距離からの攻撃だったため、痛みはなかったけれど、私の顔に結構な勢いで直撃する。
私は驚いて尻もちをつき、何をするんだとかつきくんを見上げたが、彼は既にベランダの手すりに手をかけ、ちょうどこちらを振り返ったところであった。
「もうお前みたいなバカ知らねぇ!フンッ!!」
そう言って、手すりによじ登って、自分の部屋のベランダの手すりへと危なげなく乗り移り、私の視界から消えていった。一方の私は、嵐のように去っていった彼を、唖然と座ったまま見送った。
その日の夜、宝物が見つかって嬉しいはずなのに、私はそれよりも、かつきくんのことばかりを考えていた。
なぜなら、かつきくんが自分の部屋に戻っていってしまった後に、お礼を言えていないことに気付いたからだ。
親から、「人に優しくされた時、“ありがとう”とすぐに言いなさい」と、常日頃から教えられてきた。なんでも、にんげんかんけいをえんかつにするまほうのことばの中の一つ、らしい。
この日は夜寝るまでの間ずっと、『明日ちゃんと“ありがとう”を言わないと』という気持ちでいっぱいだった。
私にとってのかつきくんは、いつも幼稚園でバカ騒ぎしている、うるさい乱暴者という印象でしかなかった。
だが、あの時、あの瞬間。
夕陽に照らされた髪がキラキラと、まるで闇夜に輝く星々のように光っていて。
顔に影が落ちていても分かる、強い意志を宿した深紅の瞳と目があった時、突然の来訪者に慌て、加えて足の痺れによって転んだことで少し混乱していた私は、かつきくんを見て、安心したのだ。
私を心配し、危険をおかして来てくれた、その行動。
困った人のところへ、自らの危険を押して駆けつけるその姿は、まるで、オールマイトのような…
事件でも、怪我をしたわけでもない。
だが、それでも。
それでも、あの時のかつきくんは、私にとってのヒーローだった。
________
『ど…どうしよう…』
私は今、人生(たった数年の)で一番困っている。
なぜなら、昨日の“夕方の流れ星事件”(かつきくん来襲事件)で、私の宝物を見つけて、届けてくれた恩人であるかつきくんにお礼を言いたいのに、件のかつきくんが捕まらないからだ。
「見ろよ!これ!!」
「わー!かつきくんすごーい!」
「それ、昨日新発売のカードのやつじゃん!」
かつきくんはいつも一緒に遊んでいる子たちの中心で、高々と腕をかかげて得意げに胸を張っている。
とてもじゃないが、私にはあの中に入って話しかけられるような勇気はない。
「そうだ!最高レアカードのオールマイトだぜ!しかも一発!(ホントは5回だけど)」
「すっげー!!さすがかつきくん!」
「ぼくも昨日一個目でオールマイトが来てくれたんだよ!一緒だね!」
みんなが褒め称える中、ただ一人、出久くんだけはかっちゃんと同じだ、と笑顔で喜びを分かち合おうとしていた。
『おお、勇者がいた。さすが出久くん。でも…』
私はたまに聞こえてくるかつきくんたちの騒動から、今のこの状況に対して、とてつもなく嫌な予感がした。
「うっせぇデク!俺に張り合うんじゃねぇ!!」
「ご、ごめん!かっちゃん!」
予感は的中し、いつも通り出久くんに怒鳴るかつきくん。そして、「ついてこい、お前ら!」と走っていってしまった。
『ああ、やっぱり…出久くんがしゅんとしちゃった』
とりあえず今はかつきくんは諦めて、出久くんのところへ行くことにする。
「いーずーくーくん」
「っわぁ!真奈ちゃん!」
「それ、すごいね!かっこいい!」
「うん!オールマイトって一番かっこいいよね!それにね…!」
出久くんは、オールマイトやヒーローの話になると、目をキラキラとさせて、たくさん話をしてくれる。
面白くて笑っていたら、誰かの視線を感じた。
周りを見渡したけれど、みんな遊びに夢中で、誰も私のことは見ていなかった。
「…?真奈ちゃん、どうかした?」
「ううん、なんでもないよ」
___そう言って、へらりと真奈ちゃんは笑っていたが、僕は気づいていた。
そう。
部屋の反対側で友達に囲まれて、オールマイトのカードを手にしているのにも関わらず、先ほどのような笑みの消えた…
僕を睨む、かっちゃんの視線に。
出久くんとの話は楽しくて、いつの間にか遊び時間が終わり、お昼の時間、帰りの会と、あっという間に時間は過ぎていった。
そしてついに、親の迎えを待つばかりとなった。
とうとう私は本気で焦ってくる。
いったい、いつになればかつきくんに話しかけるチャンスがくるのだろうか、と。
考えてみれば、今まで私は一度もかつきくんに話しかけようとはしてこなかった。
なぜなら、今までは彼のことを、うるさくて乱暴な子だと思っていたから。そのため、自ら話しかけようと思ったことはなかったのだ。
「かつき!帰るよー!」
私が悶々としているうちに、かつきくんのお母さんが迎えに来てしまった。
私のお礼を言う機会は、絶望的となった。
「じゃあな、おまえら!」
「かっちゃんまたね!」
「また明日!」
『明日…そうだ、明日また言えば…!いや、でも、今日会ってるのに、おかしいよね。でも、もう帰っちゃうし…いや、うーん…』
お礼は明日にするか、ちゃんと今日言うか、迷いに迷っていた私は、そんな私を横目に見ながら、少しゆっくりめに帰る支度をしているかつきくんには気付くこともなく…
『やっぱり今日!今、言わないと!』と顔を上げた時には既に、かつきくんの姿はなかった。
それから間も無くして、私のお母さんも迎えに来たので、一緒に帰る。
そして、今日お礼を言う、という決意を実行するため、部屋のベランダに立った。
向かいのかつきくんの部屋は電気がついており、かつきくんがいることは確認済みだ。
あとは私の身体能力がモノを言う。それから勇気も。
昨日かつきくんは軽々とベランダの壁を超えていたが、ここは2階だ。落ちたら死ぬ。
私はかつきくんと違って悪ガキじゃないし、特別ヒーローになりたいとか、そういう目標はない。
『…いや、もう言い訳はよそう。
正直に言って、怖いです。超怖い』
少しだけ手すりにつかまって下を覗いてみたが、地面が遠かった。2階ってめちゃくちゃ高かった。
『なんでこの高さなのに、あんなに軽ーくぴょんぴょんできちゃうの!?意味わかんない!無理無理むり!あ、個性使えばいいのか!いや待て、まだうまくコントロールできない今、個性は使えない…
じゃあどうする!?もう行くしかないのか!?玄関から正面突破か!?』
(↑テンパり過ぎておかしくなっている)
「…おい」
『ああ、もう!どうしようじゃない!
お礼を言うって決めたんだろ!
しっかりしろ!私!』
「おいっ!お前!」
『ああ、幻聴まで聴こえて来た。
とりあえずもう一度手すりから挑戦して…』
「ッチ!…真奈!!」
「わっ!!え?な、何…って、かつきくん!?」
名前を呼ばれて、びっくりした私の目に飛び込んできたのは、昨日のようにベランダの手すりから顔を出す、不機嫌な顔をしたかつきくんだった。
驚きすぎてポカン、と見上げていたら、痺れを切らしたようにかつきくんのほうから話しかけて来た。
「なんなんだよ、お前。今日は朝からチラチラと見てきやがって。ガン飛ばしてんじゃねぇよ!」
「なっ!違うよ、ガン飛ばしてたわけじゃないよ!」
「さっきも俺の部屋を盗み見して、何企んでんだ?」
「た、企む!?別に、悪いことをしようとしてるわけじゃないよ!」
「じゃあ、なんだってんだよ?あ?」
(↑まだ幼いので、あ"?なんて言わない。可愛い頃もあったということで)
まさか不法侵入しようと企んでるとか思われてたのか(←大袈裟)と焦る私。
対するかつきくんは、最初の不機嫌さは消え失せ、機嫌良さげに目の端を下げて私を追い詰めてくる。
「で?何企んでたんだよ?さっさと吐いちまいな!」
なんて、によによと悪い笑顔で聞かれ、『ええい、ままよ!』と、私は思い切って昨日言いそびれたことを口にした。
「…髪飾り!」
「あ?」
「見つけてくれて、ありがとう!!」
ホントは、こんな、ぶつけるようにお礼を言うつもりはなかった。
『こんなはずじゃ、なかったのに…』
自分の思い描いていた光景とはかけ離れた今の状況に、私は思わず目を瞑って、かつきくんの視線から逃げた。
だから分からなかった。
かつきくんが予想外の言葉にキョトンとした後、俯く私を、とても優しい目で見ていたことを。
「…なんだよ、そんなことかよ」
「え?今、なんて…?」
「なっ、なんでもねぇよ!」
かつきくんは、ボソッと何かを口にしたが、その声はあまりにも小さ過ぎて、私には聞き取れなかった。
さらに、聞き返しながら顔を上げた私よりも早く、かつきくんはベランダの手すりから降りてしまっていたため、かつきくんのその反応がいいものなのか、悪いものなのか、分からなくなってしまった。
やはり、昨日すぐにお礼を言わなかったことに腹を立てているのだろうか。
それとも、バカって連呼したことを怒っているのだろうか。
『謝らなきゃ。今を逃したら、ダメだ』
そう考えた私は、先程まで怖くて身動きが取れなくなっていたことも忘れ、ベランダの手すりに捕まって身を乗り出した。
「かつきくん!」
「なっ!?お前、怖いんじゃ…」
「ごめんね!!昨日、すぐにありがとうって言えなくて!バカって言って、ごめん!!」
手すりに乗り出したことで、向かいのベランダの壁を超えて、かつきくんの顔が少し見えた。
私はかつきくんの瞳を真っ直ぐに見つめて、思っていたことを伝え、頭を下げる。
「本当に、ごめんなさい!」
「もういーから、戻れ!危ねぇだろうが!」
とりあえずお礼と謝罪ができたことにホッとした私は、自分の状態を忘れ、力を抜いてしまった。
「…っ!?」
「おい!!ッこのバカ!」
子どもはまだ体が小さく、頭のほうが重い。
よって、手すりから身を乗り出し、腕の力で上半身を支えていた状態で力を抜いたということは、必然的に重力によって頭のほうから地面へと傾く。
さらに、一度傾いてしまった体を持ち直せるような筋力はない。
最悪な状況だ。
やばい、と気づいた時には既に、体は傾き始めていた。
ゆっくりとスローモーションに移り行く景色の中、高速に巡る思考回路。
どうしよう
なんでこんなことに
怖い
色んなことが頭をよぎり、涙が目から溢れ、宙を舞う。
とっさに前方へと腕を伸ばしたが、向かいのベランダの壁を掠るのみで、体が傾くのを止められない。
怖くて仕方なくて、目を瞑った、その時。
「ッの!クソが!!」
かつきくんの大きな声と、左手に感じる、暖かい手の感触。
スローモーションだった世界が元に戻り、視線をあげると、かつきくんが手すりから乗り出し、右手で手すりを、左手で私の手を握っていた。
だが、既に私の足は手すりにかかっていたし、いくら男の子といえど、まだ子どもであるかつきくんに、同じ歳の、自分より背が高い女の子のことを引っ張り上げるだけの力はまだなかった。
「うわっ!?」
「ッ!!かつきくん!」
再び世界はスローモーションに変わる。
今度は、私の視界と思考回路が、かつきくんでいっぱいになって。
私の目線の先で、かつきくんは表情を恐怖に染めて、硬く目を瞑る。
そして、繋がった私の左手を、ぎゅう、と、まるで縋るように力を込めて握った。
その時、私の思考は、一つの答えを導き出した。
どうすれば、かつきくんを助けられる?
かつきくんを助けたい
だれか…!
いいや
私の、小さなヒーローは
私が助けるんだ!!
そう、強く思った、その瞬間。
体の奥底から“力”が湧き出した。
その“力”は私の右手に集結し、水を形作った。
私は無意識に手のひらを地面に向け、構える。
そして、私たちが落下するまで残り約1メートルを切ったとき、その膨大な“力”は、一気に地面に向かって放たれた。
結果として、私たちは無傷であり、無事だった。
全身ずぶ濡れの泥だらけになったことや、外から聞こえた大きな音を聞きつけ、様子を見にきた親たちに激怒されたことを除けば。
その後、この事件がきっかけで、私とかつきくんの家族は仲良くなった。
幼稚園への行き帰りは一緒だし、必然的に私とかつきくんもよく話すようになった。かつきくんは何故か、よく私に張り合ってきたが…
兎にも角にも、あの事件によって、私はヒーローに興味を持つようになった。
あれからの私は、出久くんを始め、かっちゃんやインターネットから情報を集め、どんどんヒーローへの憧れを募らせた。
そして、小学校に上がると同時に、周りにヒーローを志すと宣言し、本格的な修行を開始した。
あの事件の直後、私は死の恐怖から解放された安堵感を感じると共に、新たな恐怖(説教)に怯えていて気付いていなかったが、同じく横で怒られていた彼が、拳を硬く握りしめ、悔しげに顔を歪めていたのだと、後からかっちゃんのお母さんに聞いた。
私のせいで怒られてしまったからだ、と思ったが、そうではないと呆れながら言われた。
なんでも、女の子である私に助けられたのが、相当悔しかったらしい。
それからのかっちゃんは荒れ狂い、今までに増して個性を使うようになったそうだ。早く個性を使いこなす必要があるとかないとかで…
___それを聞いた時、怪我とかしなければいいな(周りの人が)、と思ったのは、ここだけの話。
私の前では、口調は悪いが、聞いたことには丁寧に返事をしてくれるし、個性を無闇矢鱈に使うようなことはしていなかったため、かっちゃんの荒れた一面に驚いたものだ。
それからというもの、小中とずっとかっちゃんと同じ学校だった。もちろん、出久くんや私の友人たちとも一緒。
小学生になった頃から、夕飯の後、お互いベランダを越えて行き来するようになった。
そして、どちらかの部屋でヒーロー談義や自分たちの個性について話したりと、あの事件での恐怖なんて忘れ、ベランダが近いことを活用し、日々充実した時間を過ごした。
私たちはお互い良きライバルとして、共にヒーローを目指し続けた。そしてようやく、私たちはヒーロー育成の最高峰である、雄英高校の入学試験を突破し、出久くんも合わせて3人で、ヒーローへの道のスタートラインに立ったのだった。
________
ここからだ。
私のヒーローへの道は、ここから始まった。
私の“個性”は水操作。
それまで、お風呂で遊ぶくらいしか使い道のなかったこの個性が、初めて《人を守ることのできる“力”》であると、身をもって知った瞬間だった。
そして、星が繋いだこの出来事こそが、わたしとかっちゃんの関係の、はじめの一歩なのだ。
かっちゃんの個性は火、私は水。正反対だ。
しかし、お互いにヒーローを志す者として、良き相談相手であり、ライバルとなった。
それは、幼稚園からずっと続く、二人の道だ。
二人の志望校であった雄英高校に揃って合格したため、ヒーローになるまでのあと3年間、この道は分かれず続いていく。
これから先、きっと、想像もつかないような険しい道が待っているのかもしれない。
だけど、私は一人じゃない。
私には心強い友人たちが、かっちゃんがいる。
かっちゃんがいれば、きっと大丈夫。彼には、そう思わせてくれる力がある。
「おい、真奈」
寒空の下、15年間の人生を振り返りながら頭上の木の枝を眺めていた私は、近付いてくる見知った気配とその声に、後ろを振り向いた。
雄英合格祝いを2家族揃ってうちで行われた昨日、帰り際にかっちゃんから、「明日の朝10:00に、いつもの公園にいろ」と、勝手に約束を取り付けられた。
ちなみに、いつもの公園とは、私たちが放課後に寄っていた公園のことである。
私の予定も聞かずに…と思いもしたが、きっと私は、例え約束があったとしても、かっちゃんを選んだと思う。
なぜなら、かっちゃん達家族を見送った後、どんな服を着るか悩み、後で片付けが面倒なことも気にせず箪笥をひっくり返し、両親を遅くまで突き合わせ、少しでもかわいいと思ってもらえるように頑張ってしまう程、彼のことが…
「お前には俺が必要だろ。だから、付き合ってやる」
「ふーん…かっちゃんには、私は必要ないんだ?」
「ッチ!テメー、分かってて言ってんだろ…」
3月の、まだ肌寒い時期。
コートにマフラーを身につけた二人は、示し合わせたかのように手袋のみを忘れてきていた。
約束の場所で並び立った二人は、間にある手を繋ぎ、もう片方はポケットに入れながら、横を向いて目線を合わせる。
「ふふっ、うん。私には、かっちゃんが必要だよ」
「だから、その呼び方はヤメロ」
「いーじゃん。私、好きだよ?“かっちゃん”」
「あ"ーったく、テメーは!」
声を荒げたかっちゃんは、私の手を思い切り引いた。
小さかった頃とは違い、ヒーローになるために努力し続け、逞しく成長した彼の力には、普通の女の子よりも筋肉がついている私の全体重をもってしても適うまい。
最も容易く重心を傾けられた私は、かっちゃんの次の行動に驚く。
「……うるせークチは、こうやって塞ぐからな」
「…かっちゃ、えっ!?ちょっと待って!」
「だから、“うるせー”んだよ」
そう言ってかっちゃんは、私の二度目のキスを満足気な顔で奪っていった。
順序がおかしいと抗議をしようとしたが、がっちりと抱き締められ、肩を押してもビクともしないため、途中で諦めた。
いや、本当はそんなことを気にする余裕がなかった。
しばらく経ち、ようやくかっちゃんが私を解放する。すると、私たちの間を風が吹き抜け、火照った顔が冷えて少し寒い。
かっちゃんはそんな私を分かっているかのように頬に手を当てる。昔から体温の高いかっちゃんは、よくこうやって寒がりな私を温めてくれた。
そして、私の目を見つめながら、私が望んでいた言葉を口にした。
「…真奈、好きだ。俺と付き合え」
ホントは、順序のことを言ってやろうとか、かわいくないことを思っていた。
でも、そんなこと気にならないくらいに、かっちゃんの行動も、言葉も、涙が出るほど嬉しくて。
「…っうん!私も、かっちゃんが好き!」
溢れる涙を拭うことすら忘れ、この胸の内から湧き上がる愛しさを、目の前で優しく私を見つめるかっちゃんにぶつけるべく、勢いよく抱き付いた。
「…んなの、昔から知ってる」
そう言いながらかっちゃんは私の背中に手を回した後、ホッと肩の力を抜いた。
密着したことで分かってしまったが、あんな上から目線だったのに緊張していたのかもしれないことは、気づかないふりをしてあげよう。
照れ臭くなった私たちは、同じタイミングで離れる。それでも目線は晒さずに見つめあったまま、微笑みあう。
そして、私たちはタイミングよく同時に左手を突き出し、拳を合わせた。何故こんなに息が合うのかというと、長年一緒にいた私たちは、相手が何を考えているのか、何をしたいのか、目を見れば分かるようになったからである。
当然、次に何をしたいかも、分かっている。
「分かってんな?真奈」
「もちろん!約束だよ、かっちゃん」
言葉にせずとも、私たちは分かり合える。
雄英に合格し、ヒーローへと一歩近づくことができたと、目に見えて実感することができたのが昨日。
そして、ずっと心に秘めていた気持ちを伝え、結ばれた今日、私たちは改めて、必ず最高のヒーローになることを誓い合った。
こうして私たちは、長年の両片想いを実らせた。
これからも二人の道が分かれずに、二人で歩んでいけることを祈りながら、春からの新生活への期待を胸に、私たちはヒーローになるべく、共に前へ突き進んでいく。
2人の頭上にあるたくさんの桜の蕾みたちが、春の温かな陽気を感じ取り、ゆらゆらと揺れている。
春は、もうすぐそこだ。
___終___
お誕生日、おめでとう!!!パンパカパン
このお話しはどうだったでしょうか…
仕事の合間だったから、一月以上かかってしまったけれど、ようやく形にできたヨ!
長い戦いだった…ジャンプの原作でかっちゃん情報が更新され、それにインスピレーションが湧いて書き直す、とか色々あったけど、喜んで貰えると、とっても、とっても嬉しいです!!
と言っても、
『家が隣同士(ベランダをつたってお互いの部屋に行き来できる距離)で小さい頃からの幼なじみ!共にヒーローを目指していて恋には少し空回りしちゃう感じ(かっちゃんツンデレw)のラブストーリーのような感じ』
この素晴らしいシチュエーションを活かしきれているのか、不安でしかねぇ…!!!
え、想像通りじゃないし、掠ってもない、とかだともう土下座もんや…自分から書くよーとか言っといて、調子にのんじゃねーわって感じや!!
そうだったら、ホントにごめん!書き直すわ…
しかも、よくよく考えたら小さい時の話しばっかやし、小中すっ飛ばした!ごめんよ!
小中のかっちゃん情報ほぼないから…!!
あ、中三の事件のやつはね、あれは今度番外編で書くね!
今後、雄英生編とかヒーローになった二人編とかで、もうちょいベランダを使って二人がラブラブするお話を書いて、クリスマスとかのプレゼント代わりにしていくつもりだから、設定でも本編でも、修正点とか、追加したいこととか、なんでも言ってね!
あと、もう気づいてるかも知れないけど、気づいてない場合に備えて、ここに見てほしいポイントと気づいてほしいことのヒントを記しておく。
ポイント→左手(気づいてほしいことのヒント)
では、最後に、このお話しとあとがきをここまで読んでくださって、誠にありがとうございました!
少しでも楽しんで貰えることを祈ってます!
それでは、またのご利用をお待ちしておりまーす!
あなたの友人より
p.s. 補足
かっちゃんが髪飾りを見つけられたのは、いつも真奈を見ていたから。そして、見ていたからこそ、絵本の時間が終わった後に、髪飾りがないことに気がつく。
だが、まさか絵本を入れるカゴの中にあるとは思わず、とりあえず室内ではあると見当はついていたので、さりげなく探していた。そして、あらかた探し終わったのに見つからず、もしかして、と念のためカゴの中を探したらあった、という経緯。
さらに、いつもなら帰っておやつを食べたらすぐに遊びに行くのだが、髪飾りを見つけた日はそれを渡すために、次の日は、何故かは分からないが自分に用があるみたいで気にしていたから、という理由で遊びに行くのを断っていた。
タイトルである星が繋いだ物語、というのは、星の髪飾りが二人が仲良くなるきっかけであり、さらに、今まで興味すらなかったヒーローを志すきっかけであること、良き友人と恋人、良き相談相手とライバル、と、大小二つの髪飾りとをかけている、って感じ。
なぜ星なのかというと、私のヒーローのイメージが星だから!
太陽でもなく、月でもなく…やっぱり、夜に向かって薄暗くなっていく世界の中、まだ明るいのにもかかわらず力強く光り、人々を導く一番星が、恐怖に怯える人の元に駆けつけ、たとえどんな状況だったとしても、笑顔で人々を助けるオールマイトに、希望の光に、一番似合っていると思ったからさ!
以上、補足でした!
何か分からないこととか質問があれば、常時受け付けます!
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