小説 | ナノ


入学式の後、部活動紹介を経て、ホームルームが終わったと同時に、俺と真奈はバレー部へと駆け出した
千鳥山のバレー部の使用する体育館は大きく、コートが2つある
片方ずつ男女で別れて使っているような感じだ

真奈はもちろん、俺も多少は有名であり、先輩たちに認識された瞬間にそれぞれ取り囲まれることとなった
初日は流れを知るためということで見学するのが普通みたいだが、俺たちがジャージを持参していることを知ると、練習に混ぜてもらえた
チームのときとは違い、男女で明確に分けられた練習メニューにより、一緒にバレーができるのは自主練の時のみであると分かった時は、ちょっとガッカリした

それでも、今までとは違う、試合会場でのみ話す関係から、常に近くに存在を感じ、休憩中などはいつでも話すことのできる関係となり、ワクワクが止まらなかった



部活動の時間が残すところあと30分となった、17時
先輩たちが、「今から男女混合で1セットマッチの試合をする。これは千鳥山排球部の伝統行事だ!」と言い出した
もちろん趣旨は小手調べだと見当はついていたが、俺と真奈にとって、そんなことはどうでも良かった
まさか、同じチームで戦うことができるなんて、と夢見心地で、2人肩を並べて円陣を組んだのだった


________



あの日、俺のスーパーレシーブの後チームの士気は上がったものの、試合は2-0で負けた
その試合後、反省会を兼ねて仲間と談笑していたら、予想外の人物に話しかけられた

「あの!リベロの君!」

ネットを挟んでいたときはあまり気にならなかったが、小学生の特徴でもある、男女での成長速度の違いが、いっそ暴力的なまでに見下ろしてきた
と思ったら、フッとレシーブの姿勢を取って、俺よりも下から見上げてきた

「すっごいレシーブだったね!さすがリベロ!でもめちゃくちゃ悔しいから、次は絶対取らせないの打ってやる!」

グッと拳を俺に突き出し、「私、幸田真奈っていうの。覚えておいてね!」と挑発するかのように、ニヤリとした笑顔を見て、呆気に取られた
チームは圧勝だったし、その強烈なサーブは何本も俺たちのコートに突き刺さり、何点も奪っていったのに
いっそ清々しいまでの向上心
これが、強豪チームで年上を抑えてセッターを任されているやつの考え方なのかと、身震いした
と同時に、俺自身もこんな風にかっこよくなりたいと、強く思った

ふるふると震えながら、何も答えない俺を不審に思ったのか、眉をハの字にして、腕を引っ込めながら自信なさげに肩を落としていくのを見て、俺は慌てて拳を突き出した

「お前も!相変わらず、すっげぇサーブだった!でも、次は完璧に上げてみせるぜ!」

ゴンっと音がするほどの勢いでぶつかった拳に驚いたのか、目が丸くなる
そんな表情も可愛くて、俺の方が逆に驚いた

「西谷夕、だ!覚えておけよ、真奈!」

「夕くんね、覚えた!」俺の名前を口にしながら、にぱっと花が開く様に、嬉しそうに笑った
いつも遠目から見ていたあの笑顔が、こんなに至近距離で、自分に向かって微笑んでいるということを認識した瞬間、ドッと心臓が勢いよく血液を送り出し、顔が火照っていくのが分かった
なんだか恥ずかしいような、顔を背けてしまいたいような気持ちに陥ったが、この笑顔をずっと見ていたいという気持ちの方が勝り、「じゃあ、また試合で会おうね!」と手を振りながら自分のチームのところへ走っていく姿を見送って、仲間たちからズルいぞと絡まれるまで、目が離せなかったことを覚えている



それ以降、俺はレシーブ練に力を入れ、安定してリベロを任されるようになった
以前にまして繋がるようになったボールは、必然的にチームの士気も、勝率も上げた
真奈とは、試合会場で会った時は足を止めて話し、お互いの試合を応援するような関係になった
試合で当たった時は、お互いに煽り合い、いいプレーには賞賛の言葉をかけた

俺が成長するということは、相手も成長するということ
真奈は俺に取られまいと、より一層サーブ練習に力を入れ、スパイクだけでなくフローターや天井、それに加えて同じ利き腕で打つにも関わらず左利きを相手にするような回転のかかったサーブを身につけ、それらを組み合わせることで全く読めないサーブを繰り出してくるようになった
特にフローターは、俺の苦手なオーバーでレシーブすることがあるため、なかなか取れないことが続いた

真奈はたったの数回で俺の弱点に気付き、ジャンプフローターに力を入れて練習しているらしい
対戦する度に進化する相手に対応するため、いつも必死に練習した成果か、俺たちは自他共に認めるライバルとなっていった


________



「真奈!一本ナイッサー!」

俺の後ろから放たれたスパイクサーブは、ドンっという重い音と共に先輩たちのコートに突き刺さった
また腕を上げやがったなと思いながら、いつも通りに賞賛の声を送る
先輩たちは小手調べなためか、それまで緩い空気であったが、一本目のサーブ以降、ガラッと雰囲気を変え、本気が感じられた
きっとその空気を真奈も感じ取ったのだろう、二本目はジャンプフローター、三本目は逆回転のスパイクサーブ、と攻撃の手を緩めない

四本目、白帯ギリギリを通り前に落ちる、と思ったボールを、男子キャプテンが「チクショー!2個下の女子にやられてばっかでいられるか!!」と執念の滑り込みで上げて見せた
そこから女子の正セッターの先輩がトスをあげ、ブロック2枚の横から、男子のエーススパイカーが打ち込んでくる
「俺もいいとこ見せるぜ!」と飛び込んでなんとか上げられはしたものの、ボールを捉えた部分の腕がジンジンと痛み、さすが中3男子の力はすげぇと思った

上がったボールはセッターの真奈へと渡り、数回合わせただけの先輩にトスを完璧に合わせてみせた
ニヤリと悪い顔で笑った女子のエーススパイカーは、アンテナギリギリのストレートを放ち、4点目を獲得した
五本目は天井サーブで、これは拾われて向こうの得点となり、ローテが回る
お互いに接戦を繰り広げたが、先に4点先取し、その後も真奈のサーブで複数得点したため、危なげなく俺たちのチームが勝ちを納めた

その後反省会をし、部活初日は終了となった
先輩たちに「すごいレシーブだった」と口々に言われ、嬉しく思ったが、近くで真奈も囲まれてすごいすごいと盛り上がっていて、俺のことじゃないのに誰かに自慢したくなるほど嬉しいと思った
どうだ、真奈はすごいだろうと先輩たちに胸を張ると、お前もなと頭をくしゃくしゃにされた

一通り騒いだ後、自主練をする者は残るとのことで、俺は真奈に声をかけた

「真奈ー!俺にサーブ打ってくれ!!」

振り向いた真奈は、「もちろんそのつもり!絶対取らせないから!」と言うと同時にフローターを打ってきた
オーバーで取ろうとしたが、ボールは俺の頭上を通り越して後ろに落ちた
「あっ、くっそー!!」
「ふっふっふ…夕くんは相変わらずオーバーが苦手ですな?でも、私はジャンフロの練習がしたいから!」

ニヤリと口角を上げ、腰に手を置き胸を張りながら、「セッターまで、完璧に上げてみせてよ」と言い放った
その挑発に隠された、俺ならオーバーで取れるようになるだろう、という期待に気付かない程、俺たちの付き合いは希薄ではない

今までは敵チームだったから、俺たちが一緒に練習することは一度もなかった
唯一対峙するのは一発勝負の試合でのみ
お互い本気でぶつかり合ってきたし、負けないように練習に励んだ
だが今は、同じ中学校の仲間として対峙している
これから先、少なくとも3年間は、一緒に高め合っていけるのだ

「っしゃあ!絶対モノにして見せるぜ!!」

取りきれなかったボールを引っ掴み、その足で空いているコートの一角を陣取って、ボールカートを準備した俺は、2人分のタオルと飲み物を先輩マネージャーから受け取って走ってくる真奈を急かした



俺たちの道は、平行線だった
それでもお互いを見失わずにここまで来られたのは、ライバルだとしても、それぞれ相手のことを認めていたからだろう
今、道は重なり、未来へと続く一本道となった

これから始まるのだ
俺たちの、新たな物語は





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