小説 | ナノ


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お相手は西谷夕
過去や流れ、試合結果などの捏造あり

あとは物語の中で詳しく書いていきます


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小学校高学年になった頃のこと
試合会場で、いつからか目に留まるようになった、隣町のチームの、ものすごいサーブを打つセッターの女の子
獲物を狙う猛禽類のような容赦ないセットアップで相手を追い詰めていくのが特徴
とても楽しそうにバレーをしているのが印象的で、自然と周りの人の目を惹きつける選手である

小学生の女子の中で高いほうに入る、羨ましい上背
しなやかな手足はスッと伸びていて
ポニーテールは体の動きに合わせてふわふわと揺れる
若干タレた目元は優しげで、細めただけでも笑っているように見える
弧を描いている口元はちょこんと小さく、仲間と笑い合ってる時などは本当に可愛らしい

程よい筋肉は付いているが、所詮は小学生の女の子の体付き
しかしながら、その小さく細い体から放たれる強烈なサーブは、噂では1セットサーブだけで取ったこともあるというのだから驚きだ

そのチームにはセッター以外にも強い選手が揃っている
もちろん大会で上位入賞するのはもちろん、全国大会出場常連チームだ
自分のチームはサーブの強い選手がおらず、繋いで繋いで、相手のミスを誘うか、相手の崩れたところを狙うような試合運びで、あまり勝ち残ったことはない

最強のサーブがあれば、手持ちの武器がそれだけだったとしても、相手チームと対等に戦うことができる
その堂々とした様は、本当に、最っ高にかっこいい
憧れにも似た羨望の眼差しで、観客席から眺めていたことは数知れず

そんな強いチームとの久方ぶりの対戦で、それは予告なく、突如起こった
当時どこにでもいるような選手だった俺は、自分と同い年の女の子によって、バレーボール人生を文字通り狂わされた



「ナイスレシーブ!!」



悔しいけど!という前置きに加え、眉間に皺を寄せながらも、グッドサインを俺に向け、不敵な笑みを浮かべている
放たれたスパイクサーブもだが、その言葉は、まるで隕石が降ってきたかのような衝撃だった

第一セットを落とし、後がない第二セット中盤
点差は縮まらず、うちのチームが得意なはずのレシーブも繋がらず、嫌な空気の中回ってきた、あの子のサーブ
その絶体絶命の、絶望的な状況
誰もが、このまま自分たちは負けるんじゃないかと内心恐怖していた

俺は元々運動神経が良かったが、あのサーブを一発目で上げられたのは奇跡に近かった
バシッという音と共に、不格好ながらも上がったボールが、なんとか繋がって取れた一点
向こうのチームはあの子のサーブが一発目で取られたことがなかなかないためか、一瞬の戸惑いが生まれ、ブロックの反応が遅れた
そこを見逃さずに打ち込んだスパイカーではなく、俺に向けられた賞賛の声
会場中が一瞬の静寂に包まれ、その後ワッと歓声が響き渡った

いつもなら、自分に注目が集まった時は死ぬほど嬉しいし、全身で喜びの舞を踊る
でも、今は
この瞬間、喜びよりも勝る何かが、俺を支配していた

チームメイトが体当たりしてきて、揉みくちゃになっても、さほど気にならなかった
ドンマイ!と相手チームから声をかけられ、それに返答しつつも、俺から外されることはない好戦的な視線
奇跡だとしても、強敵のサーブを一発で上げることができたという事実に高揚する
その相手から賞賛されて、湧き上がる闘争心

それと同時に、ストン、と落ちた感覚がした



俺はこの時、バレーボールを、何より、リベロというポジションが好きになった



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桜舞う季節、春
それは、出会いと別れの時期
6年間通った小学校を卒業し、俺は中学校へ進学した

「夕くん!」

その声に反応し、足を止めて振り向く
視界に捉えた相手は、小走りで駆け寄ってきた
にっこりと嬉しそうに笑う彼女は、昨日まで敵チームに所属したライバルだった
だが、今日からは、同じ千鳥山中学校に通う、仲間だ

「あっ!私たち、同じクラスだよ!」

貼り出されたクラス分けを人混みの後ろから覗いてすぐ、身長の違いからか、俺よりも早く自分と俺のクラスを見つけ出し、「やったね!」と笑顔を向けてくる
こればかりは仕方のないことだと割り切ってはいても、俺も早くデカくなりてぇ、と悔しさを感じてしまう
だが、眉間に少しでも皺が寄ったり、返答が遅くなるだけで、何かまずいことを言っただろうかと不安がってしまうため、すぐさま笑顔で返事をする
選手の調子、相手の様子などコート全体を見て的確な判断を下し、チームを勝利へ導いてきた、小学校最後の大会でベストセッター賞を授与された彼女の観察眼は凄まじいのだ

「おう!やったな!一緒に部活行こうぜ!」

ニコニコしながら、「もちろん!」と返事をするのを横目に見ながら、俺は真っ白な紙に印字された名前を再確認する

“幸田真奈”

それは、俺が誇りを持ってリベロの仕事を全う出来るようになるきっかけをくれた相手の名前



そして、これから先の人生において、俺が最も多く口にする名前である





これは、排球が大好きな男女によって紡がれる物語



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