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「あ」

 沖田は空を見上げた。

 ここ数日ぐずついていた天気は回復し、白く薄い雲がかかってはいるが青空が覗く。

「……へぇ〜、」

 冬の空の色と春のそれは違うんだなぁと沖田は感心したように呟いた。

 どこが違うんだろうかと考えてみる。吹く風が温くなり、太陽の位置が少し高くなると射す光は明るさを増す。冴え冴えと澄んだ青はやわく明るい青になる。

 誰が植えたのか紅梅が1本、近づく春を知らせていた。

「お、沖田くんじゃん」

 背後からちょっと気の抜けた声がして沖田が振り向くと、作業着に黒いダウンジャケットを羽織った坂田がポケットに手を突っ込んで立っていた。

「旦那。何やってんですかィ」

「『旦那』?」

「そ、旦那。アンタのことでさ。なかなかあってると思いやせんか」

「そうかぁ?」

「そういや胡散臭い商売始めたらしいじゃねェですかィ」

「胡散臭いって、失礼しちゃうなー、ご町内のよろず承りますって親切丁寧ななんでも屋だろ。つか、なんで知ってんの?」

「旦那ンちのお隣さんが宣伝して歩いてやしたぜ」

「神楽か!? ったくアイツは…」

 沖田は舌打ちする坂田を見てクスリと笑うと空を見上げた。

「やっぱ、日本はいいよなぁ〜…」

 沖田につられるように空を見上げた坂田がポツリと独り言のようにこぼした。

「あぁ、そういや、外国行ってたんでしたっけ?」

「そ。オーストラリア。3年ぐらいかなー。バイトしながらプラプラしてた」

「どんなとこでした?」

「のんびりっつうか。いいかげんっつうか。ま、でっかい田舎だよな。なんだろ。風とか。空の色とか。空気とか。こことは違うんだよなぁ。うまく言えねぇけど。んで、しっくりくんのはここなんだわ。面白ェよなぁ。結局、生まれたとこがいちばんなのかね」

 坂田は懐かしそうな表情を浮かべながら、抱っこしたコアラが臭かった話や、カンガルーが増え過ぎて困っている話、ブッシュファイヤーの季節にはブッシュファイヤー警報なるものが天気予報でだされる話をした。

「ま、住みやすいとこじゃねぇの? っつっても、なんだかんだで白豪主義の名残はあっけどな〜。ま、仕方ねぇんだろうな。世界中どこ行ったって差別ぐらいあんだろ」

「へぇ〜…」

「何? 知り合いでもいんの? オーストラリアに?」

「知り合いっつうか、気にくわないヤツがね。行ってんでさ」

「ふーん。もしかすっとどっかですれ違ってっかもな、その気にくわねぇってヤツと」

 坂田は沖田を見てニヤリと笑うと、自分より少しだけ低い沖田の頭をポーンッと叩いた。

「ッテェ。旦那ァ、公務執行妨害で逮捕しやすぜ」

「ぇえええ!?」

 沖田は慌てる坂田が面白くて笑うと、

「ウソでさァ。じゃ、これで」

と手を上げた。

「おう。じゃあな」

 坂田も手を上げる。

 沖田は歩きながらそばにあった木の枝に小さな固い蕾がついているのに気がついた。

 季節は自分が知らない間にいつのまにか、しかし確実に巡っているものらしい。



(沖田と銀時)

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