08 〜merry Christmas!〜
街はキラキラピカピカとどこもかしこも光っていて、どの人もみな足取りは軽く楽しそうだ。大きな箱や袋をぶら下げて自分の目の前を通り過ぎて行く。
神楽は通りの隅にしゃがみ、キラキラと光る街と道行く人を眺めていた。クリスマス寒波とやらで今夜は冷え込むらしい。手袋を忘れちゃったなぁとゴシゴシと手のひらや手の甲をこすり合わせた。ハァーッと息を吹きかけるとほんのりあったかい。吐き出した息は白くて、街の灯りに照らされた夜の空に消えて行った。
もっと寒い北の方の街は、ホワイトクリスマスになっているんだろう。
パピーとアイツは、それぞれどこでどんなクリスマスを過ごしているのかな。
神楽はもう一度ハァーッと手に息を吹きかけた。
「おい。まァたこんなとこでオメーは何やってんでィ」
頭上で声がした。
「げっ」
「『げっ』じゃねェだろう。補導するぞ」
神楽が顔を上げると沖田がいた。
「幸せのお裾分けをもらってるネ。そーゆーお前は何してるアル? 私のストーキングしてるアルカ? 警察がストーカーとは世も末ネ」
「誰がテメーのストーカーなんざするか。ホラ、立て。送ってってやるから感謝しろィ」
そう言うと、沖田は神楽の腕を掴んだ。
「痛い。痛いネ。何するネ。訴えるアル」
「テメ、このガキ、ホンットにとっ捕まえるぞ。コラ」
二人でぎゃあぎゃあ騒いでいると背後から声がする。
「お兄さん。嫌がってんじゃん。放してやんなさいよ」
「そうネ。嫌がってるネ。ほら、さっさと放してやるネ」
声の主は一瞬外国人か?とも思ったが、どうやら日本人のようでなんとも不思議な色をしている。
「おお〜! もしかしてお前、サンタとかゆージジィアルカ? サンタは白髪のジジィじゃなかったアルカ!? 白髪のオッサンがサンタだったアルカ!?」
「いやいやいやいや、銀さんはオッサンであって、ジジィでもサンタでもねぇから。てゆーか、こんなに寒ィとか聞いてねぇんだけど」
「身分証明書、見せろィ」
沖田は自分のバッジを見せ、訝しむように男を眺めた。
「え!? お兄さん、けーさつ!? マジ!? で、何、俺、怪しまれてんの!? やっとこさ、帰り着いたと思ったらコレかよ。パスポートとかでもいいの?」
「へぇ〜、坂田銀時さん、と」
「お前、サンタじゃないならどこから来たアルカ?」
「俺? オーストラリアから帰って来たとこ。住むとこも決まってねぇんだけど、これってヤバい? 俺、しょっぴかれんの?」
沖田がどうすっかなと考えていると、まじまじと男を眺めていた神楽が口を開いた。
「住むとこなら紹介するアル。うちの隣が空いてるネ。ババァも部屋が埋まって助かるアル。そうと決まったら行くアル」
「オイ、コラ、決まってねェ。どさくさで逃げんな」
「チッ!」
舌打ちなんざしてんじゃねェと沖田は神楽の頭にゴンとげんこつを落とした。
「テッ」
「で、坂田サンは今日はどうするんでィ」
「テキトーにホテルでも探すつもりだったんだけど」
「ホテルなんて必要ないアル。ババァ、きっといいって言うネ。一緒に行くアル。ダメ? ダメアルカ?」
「ん〜。とりあえず、俺、メシ食いたいんだけど。寒いしよ」
「ババァんとこで食べたらいいアル。ババァんとこで食えるアル」
クイックイッと神楽が坂田の袖を引っ張る。よっぽど坂田が気に入ったらしい。坂田は困ったように笑うとポリポリと頭を掻いた。
「あ〜、コレ、誘拐犯とかで捕まる?」
坂田は俯き加減に沖田の顔色を窺うようにチラリと目線を上げた。
「そうだなァ。俺も一緒に行くかァ」
「お? パトカー乗れんの?」
「何言ってんでィ。歩くに決まってんだろィ」
「あ〜ぁ、使えないネ…」
「国家権力たいしたことねぇなぁ〜」
「テメーら逮捕されてェのか」
キラキラピカピカ光る街を白い息を吐きながら歩く。足取りは軽い。
「へへっ」
「どうした?」
「べっつにィ〜」
メリークリスマス!
(神楽)
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