陽の当たる場所で


 通り過ぎる風にカサカサと枯れ葉が小さな音をたてる。柔らかな陽射しはどこか淋しげで、なぜだかため息を吐いてみたくなる。

「銀ちゃん、銀ちゃん」

 聞き覚えのある名前と声に顔を上げた。店の外に置かれた丸いテーブルに向かい合って座っているのはよく見知った顔だ。テーブルの上にはケーキとジュースの注がれたグラスとティーカップが並んでいる。

「コレ、ホントに食っていいアルカ? どうしたヨ、銀ちゃん。どういう風の吹き回しネ」

 いつもと変わらぬ調子の会話が聞こえてくる。

「あっ! そうか! パチンコで勝ったアルカ?」

「そうそう、パチンコで勝ったんだよ。オイ、ゴチャゴチャ言ってて食わねーなら俺が全部食うぞ」

「食う!食う!」

「おう、食え食え」

 会話を聞きながらそう言えばガキがなんか言ってたなァと思い出した。

 ガキに「オイ」と呼び止められたのは何日か前だった。ふんぞり返って偉そうに見上げるガキをこちらも負けじと見下ろしてやりながら「なんでィ」と返すと、ガキは自分に貢げと不適に笑う。意味がわからねェと睨み返すとガキは誕生日だと言った。「テメェに物をやったって俺にはなんの得もねェのにやるわけねェだろ」と言ってやると、「オマエの損得なんかカンケーないネ。グダグダ言わずに黙って貢ぐアル」と返ってきた。それからしばらくああだこうだと言い合あってから「じゃあな」と別れた。

 偶然にでも会えばなんかテキトーに餌付けでもしてやろうかなと考えていた自分がいたことも思い出して思わず眉を顰める。

「銀ちゃん?」

 少女がフォークを持ったまま頬杖を突いて向かいに座る白髪頭の男に声をかける。

「んー?」

 男は面倒くさそうに答える。

「ケーキ、美味いアルナ」

「そりゃよかったな」

「ん」

 少女は俯いたその一瞬、小さくはにかんだ。そして、赤いイチゴのショートケーキをフォークで切る。男は呆れたみたいに少女に応えていたが、フッと遠くに視線をやって微かに笑った。

 ハァと大きくため息を吐いてから澄んだ高い空を見上げた。斜めに射し込む昼下がりの陽光はやさしくて、でもやっぱり淋しげだなと苦々しく笑ってからクルリと背を向け歩き出す。もしも今日中に会えたら、そのときは酢昆布でも買ってやろうかなぁとちょっとだけ思った。



(神楽ちゃんと銀さんと沖田くん)






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