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▼ もう遊びとは言ってられない

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「できた?」
「まだだって。ちょっと待ってろ」

まだかまだかと背中にへばりついて腕の下からプライパンを覗くアンに、俺はデコピンをお見舞いした。

「イタッ!」
「バーカ。邪魔するお前が悪いっての」

夜十時半。
ここは俺の部屋。

おかしいだろ?俺もそう思うんだ。
確か今日は、会社帰りにはじめて寄った雰囲気のいいバーで、結構、いやかなりイケてるかわくて色気のある女の子をGETしたんだ。本来ならばそのままホテルに直行して、今頃ベッドでニャンニャン楽しんでいるはず。
なのに、

「サッチーゴトウ出たっ!ゴトウ!」
「高低差ありすぎて耳キーンってか?」
「あはは!全然似てない」

あ、ほら始まった!早くしなきゃ聞き逃すよー

・・・ここはお前の家か?
邪魔をしたらサッチ様☆特製焼きそばの登場が遅くなると気づいたのだろう。アンは当たり前のようにソファに座ってチャンネルをいじっている。っていうか馴染みすぎだろ。いろいろ突っ込み出したらきりがないが、そう言わずにはいられない。そもそもコンビニの時点で気づけばよかった。完全にアンのペースだ。


コンビニを出た後、俺はソウイウ雰囲気に戻すべく仕切り直そうとした。当然だろ?そもそもそれが目的なのだ。
ところがアンはがさごそと袋を漁って、購入したばかりのチョコをバリバリと開けはじめた。ピンク色の板チョコだ。赤いつぶつぶがなんとも毒々しい。コンビニのゴミ箱の前で嬉しそうにがさごそする女に、一体どうやってソウイウ雰囲気にもっていけってんだ。さすがに百戦錬磨の俺でも無理だった。

アンはご丁寧にいちごチョコをひとつずつ分け与えてくれた。早々に箱から出したモビーを嬉しそうに振りながら、アンがふたつ食べて、俺にはいとひとつくれる。俺がむしゃむしゃ食べている間にふたつ口に入れて、パキンと割ってまた俺にひとつ。
そんなことを繰り返しながら道を歩いていると、アンはおなかがすいたと言い出した。たまたま24時間スーパーがあったのもいけなかったんだと思う。あれよあれよという間にやきそばの材料を買わされて、気がつくと俺は部屋でプライパンを振っていた。女は入れないと決めていたはずの俺の部屋で、だ。

「できた?」

カチャカチャと皿のぶつかる音にアンがキッチンにやって来る。

…その小走りやめろ。
なんなのこの子超可愛いんだけど?

「美味しそう!」

アンはキャッキャ言いながら俺の腰に腕を回して、後ろからきゅっと抱きついた。

「だろ?サッチ様☆特製だからな」
「☆、入れなきゃダメなの?」
「あったりまえだろ?サッチ様ホシ特製、だ」

後ろから俺の顔を覗き込んでニコニコ笑うアン。
やべぇ、こいつマジで可愛いな。俺のキュンポイントを突きまくっている。おかしい。俺は今絶賛女遊び中のはずなのに。

「おら、離れろ」

わざとそっけない声を出した。これは遊びで、一晩経ったらはいさよならなのだ。予定とはかなり違ったが、俺は女と付き合う気なんてさらさらない。それだけは変わらない事実。
あぁだからつまり、恋人ごっこもオプション設定された女遊びってことか。なるほど。それなら大歓迎だ。俺は自分なりにこの状況を解釈し、少し冷静さを取り戻した。
背中から離れたアンが俺の手から皿をひとつ取った。なんだ?と思っていると、そのまま胸ぐらを引っ張られる。

「・・・は?」

自然と身を屈めて間抜けな声を出した俺の唇を塞ぐように、アンはチュッと短いキスをした。

「ありがと。サッチ」

片手に焼きそばを持って中腰という情けない体勢のまま一時停止。少し目を細めて一瞬色気を湛えたその瞳に、俺の心臓は一瞬止まって、それからバクバクと脈を打ちはじめた。

あぁ、これは
【もう遊びとは言ってられない】


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