▼ 俺は、出会ってしまった
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「あなた、遊び人?」
目の前にいるカワイコちゃんはそう言って細い首を少し傾げた。グロスが艶やかな唇と大きな目、流れる黒髪に真っ白な肌。若くて可愛さの中に色気がちらりと見える。そう、こいつは俺のモロタイプだった。
金曜日。
なんとなくいつもとは違うバーにふらっと立ち寄った。
そこは前から気になっていた店。古ぼけた木製のドアの上にオレンジの明かりが一つぽつんと灯っている。ドアの横には陶器の黒猫。しっぽがクルンと巻いた先に「Again」と書かれた甲板。普通に歩いていたら目に留まらないような小さな店だ。知ってる人だけが来たらそれでいいとでもいうような無主張さ加減が逆に気になっていた。
「まさか。そんなわけねぇじゃん。俺ってば超真面目よ?」
超真面目、と超軽い口調で返す。もちろん真面目な訳がない。真剣にお付き合いがしたいわけじゃない。つまり遊ぶ気満々なのだ。このカワイコちゃんと、今日だけ。でも堂々と遊び人だと言ってついてくる女なんていないことくらい数々の経験で分かっている。だから俺は軽く言うわけだ。俺ってば超真面目、と。
「そうなの。じゃあ他当たって?」
予想に反して、それを聞いた女はつまらなそうな顔をした。あぁがっかり、と顔に書いてある。
カウンターに頬杖をついてこちらを見上げる。
「私、遊びたいの」
そのままにっこり微笑んだ。
「で、お兄さん、遊び人?」
あぁこのお嬢さんは遊び人がご希望らしい。今日はツイてるな。
「違った。俺、遊び人かもしんねぇ」
満足気に微笑むお嬢さんに俺はそっと手を差し伸べた。
一生忘れられない女に、
【俺は、出会ってしまった】
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