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▼ 好きは後からついてくる

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ふんふんと楽しそうに調子外れの鼻歌が聞こえる。
メロディーを忘れたのか、時折自信なさげに小さくなって、また思い出したかのように楽しげに響く。

順調に航海を進めるモビーディック号の甲板。
波は高いが荒れているという程でもなく、新世界になれた海賊達には退屈なほど平和だ。

何がそんなに楽しいのか、そのまんなかで鼻歌を歌っているのがラクヨウ。
アンはそれを黙って見ている。

退屈なのだ。
特に何もすることがない。体を動かすのにも飽きたし、食堂に行ったところでお腹も空いていない。
暇を持て余して甲板へ出れば、ラクヨウがいた。
だから見ている。

鼻歌は突然止まったり、同じ所をループしたり、かと思ったら突然違うメロディーに変わったり。
その度にくるくる動く表情は面白いのひとこと。見ていて飽きない。
今のラクヨウは熱唱モード。眉間にシワを寄せて、演歌でも歌いあげるかのように気合いが入っている。
けれど、鼻歌。
そのアンバランスさに、思わず笑いがこみ上げる。

「ふふっ」

笑い声が耳に入ったのか、ラクヨウがこっちを向いて止まった。
あぁ、ヤバい怒ったのかもしれない。
さすがに笑うのはまずかったかと焦ったアンをラクヨウはじっと見ている。

「なぁ、おれと結婚しねぇか?」

再び動きだしたかと思うと、そんなことを言い出した。
顔がマジだ。

「あははははっ!」

アンが一人大笑いしたのは、別にひどいことじゃないだろう。
さっきまでの鼻歌はどこに行ったのだ。目が合ったと思ったらプロポーズだなんてありえない。

「なんだよ、どうしたんだ?」

不思議そうにこっちを見るラクヨウが更におかしくて、ケタケタと笑っていたらなんだか甲板中の注目を浴びていた。
ひとしきり笑って落ち着いた頃には、なんだなんだと見知った顔が寄ってくる。

「いいよ」

そう言ったら、目の前の男共は揃ってキョトンとした顔をした。
それがまた、何ともいえず面白い。

「だから、結婚。してあげる」

一瞬、音がやんだ。

「はぁっ?!」

そして大音響で帰ってきた。

「どうしたアン!?頭打ったか?!」
「サッチお前、アンのメシに何か入れたか?!」
「入れてねえよっ!!」
「正気に戻るんだアン!!気を強く持て!」

かなりめちゃくちゃな言われようだ。
それにまた、一人笑った。
ケタケタと笑うアンを見ながら、当のラクヨウは不思議そうに首を傾げる。
ドレッドのおっさんがコテンと首を傾げてみた所で別に可愛くない。可笑しいだけだ。

「結婚すんのか?」
「うん、しようか」

鏡のようにアンも首を傾げながら答えれば、ラクヨウの顔がぱぁっと輝く。

「あ、でもいきなりはヤダ」

ヤダと言えば、可哀想なぐらいに表情が曇る。

「やっぱデートとかしたいじゃん?」

笑ってみせれば、尻尾を降る子犬のように喜んだ。
それにクスクスとまた笑った。

別に恋愛感情があるわけじゃない。
けれど毎日こんなに笑って過ごせたら、それってすごく幸せなんじゃないかと思う。

「幸せにしてね」

おう!と気合いの入った返事をひとつして、ラクヨウはその場に転がって吠えた。
驚き呆れる男達の中で、アンだけが一人笑っていた。





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