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シャッターを切る音があちらこちらから聞こえる。校内は、特に3年生の教室付近はいつも以上にざわついていた。それもその筈、今日は卒業式だ。誰のって、私の。

「ついに私も卒業かー」
「まさかお前が出来るとは思わなかったけどな」

「いや、エースには言われたくないよ。エースにだけは言われたくないよ」
「馬鹿言え、俺は無遅刻無欠席だ。卒業できて当然だろ?」
「何故ドヤ顔。学校来てずっと寝てたくせによく言うよ。卒業証書の名前、ちゃんと自分だった?」

「…え、」
「え?」

「そういやちゃんと見てねぇ!!!」

卒業証書どこだと慌て出したエースに周りにいたクラスメイトがケラケラと笑う。
そんなやり取りも明日からはなくなってしまうと思うと、妙な気持ちだった。
エースは有名な大学からスポーツ推薦の話が来ていたけど、直前で辞退した。世界中を旅して回るのだという。

「大丈夫かね、地球の裏側でアホやっても誰も突っ込めないんだからね」
「やらねぇよ!てかまぁこれさえあれば、なんとかなんだろ」

これ、とエースは首から提げた一眼レフを指差した。
去年辺りからモデルの仕事をしていたエースは、撮られる側より撮る側に興味を持ったのだという。ブログに載せている写真は日常の些細な一こまばかりだけど、見ているだけで元気になれる。エースの撮る写真は暖かくて、まるでエースそのものだ。なんて、照れくさいから本人には絶対言ってやらないけど。

「頑張ってね」
「おう。お前もな」

なんか照れくさいな。そう言って笑い合っていると、廊下を見慣れた影が横切った。マルコ先生だ。
条件反射でつい目で追っていると、ふいに頭に重みを感じた。エースが顎を載せたのだ。

「行かねぇの?アピール大作戦はまだ続行中だろ?」
「…うん、でも昨日もあっさりかわされたし、自分から終わらせに行くってなんか悲しーな」

「逆転ホームランとかあるかも知れねぇぞ?」
「昨日服脱いで迫っても、眉ひとつ動かさなかったのに?」

「…は?」
「あぁもう私にこれ以上どうしろと。って行くんだけどね。結局私は愚かな、マルコ先生追跡爆弾なんだよね。見つけたら追わずにはいられない的な。笑いたければどうぞ笑ってくださいな」

「や、意味わかんねぇよ。ってかそれマルコが逆に不憫だわ」
「何?私の裸は害だとでも?結構いい身体してんだからね、これでも」

「知って、…はいねぇけど、まぁあれだ。ガンバレ」
「ありがとう。非常に棒読みなのが気になるけど、頑張ってくるよ」

マルコ先生に向かっていざ出撃ー!
必要以上にテンションを上げて廊下に飛び出した。玉砕じゃー!と叫ぶと後ろでエースが「ほんと、お前馬鹿」と笑う声が聞こえて、なんだか勇気が沸いてきた。

「…頑張れ、か。お前が頑張れよ、俺」

そんな私を見送ったエースが零した一言も、実は私をずっと好きでいてくれたなんてちょっと驚きな事実も、結局私は最後まで気付かなかった。

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