▼ like a rolling
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死線をくぐり抜けた回数に準じて絆ってのは強くなる。
だけど、不可思議な事に強くなった絆の分だけ素直に成る勇気も減ってく。
「おぉ〜、アン!!お前また金星挙げたってなぁ!」
「あー、…まぁ…ね。」
「ほらほらコッチきて見なさい。俺が疲れを癒し…グェ。」
「まさかの大金星あげてやろうか。ねぇ、オカシラ?」
「いだだだだだっ!!ちょい待てよっ?!冗談でっ、グェェ!!」
左腕があったなら、恐らく両手を大袈裟に広げている図になるのだろう。キラキラと小気味の悪い爽やかな笑顔を、渾身の右ストレートで苦悶の表情に塗り替えた。
きっと痛くは無いだろうに、そんな方法でじゃれつく我が船長に頭が痛い。
「やめとけアン。それじゃこの人の思うツボだろう。」
「ベックマン…。」
「ブェンン!!アンが、アンが鳩尾ばっか正確に打ち込むっ。お前、何て教育してんだよ?!」
「そりゃ、アンタが悪いさ。俺は感知しねぇ話だ。」
縋るように告げ口をする赤い髪のおっさんを、呆れた顔で邪険にする手にはお馴染みの茶色い煙草があって、それをボンヤリ眺めていたら戦闘で興奮していた自分が嘘のように静まっていくのを感じた。
「いーんだいーんだ、俺なんか。どぉおせアンに相手してもらえませんよーだ!」
「知ってはいるが、餓鬼かアンタ。」
鬱陶しげにそう面と向かって赤髪のシャンクスを邪険に出来る。それは絆であり、親愛。…そして、ちょっとの本音。
だから2人のやり取りは見ていて飽きない
「しょうがないなー。…ただいま、シャンクス。」
「っ?!ぬぁっ?!」
「っ?!!」
「ほらほら!何ボーっとしてんの?お頭が号令かけなきゃ皆飲むに飲めないわよ?」
それがちょっと羨ましくて、大サービスの抱擁を我らがお頭にくれてやった。
スルリと抜け出して、それから良い香りのする甲板へ向かいながら茶化す。
振り返った2人は、相変わらず仲良く目を見開いてシャンクスなんか顔まで赤らめてワナワナしている。
「ベンちゃん…」
「駄目だ。」
「ベックマン…」
「額に風穴開けるか?」
「……ケチ。」
「うるせぇな。アレはやらねぇ。」
やたらと大袈裟に「宴ダァーっ!!」と叫んだシャンクスの真意は解らなかったけど、鋭く私に視線を送ったベックマンの表情で、少しやり過ぎたらしいと察する。
上機嫌なのかやけっぱちなのか、兎に角普段より何倍も騒がしいシャンクスを忌々しげに一瞥したあたり重篤だ。
「ほらよっ、アン!今日は主役みてぇなもんだからなぁ!浴びる程飲めっ!」
「ふふっ、ありがと。」
けれど宴を忘れちゃ女海賊が廃る。差し出された大きめの杯をヤソップから受け取って次から次へ文字通り浴びる様に呑んだ。
「おぉー!さすがアンっ!!」
「アンさん、カッコイーッ!」
それを見て何故か張り合いだしたお頭に、船の上は更なる盛り上がりをみせて夜が更けていく。丁度大樽の一本を空けた時、次の酒を頼もうと立ち上がった体が宙に浮いた。
「…時間だ。アン。」
「ちょっと、ベック?!」
「だぁっははははは!!いーぞベックマン!そのまま攫っちまえー!」
「お頭、酔っ払い過ぎだろ?!」
焦りながらシャンクスにツッコミを入れるクルーを眼下に、頬で銀髪が揺れる。紫煙の匂いが途端に色濃くなり、ベックマンの吐いた吐息が首筋をゾワリと反応させて戸惑った。
「先に言っておくが、降ろすのは床板の上じゃねぇぞ。」
「…嘘でしょう?私、飲み過ぎて無理よ」
焦る私の弱々しい反論に広い肩が揺れる。
笑っているのだ、この男は。
「生憎、俺も無理なんでな。その意見は取り下げてもらおうか。」
「やっ、ちょっとベン?!」
「アン、お前が還るべきは誰の胸か…教えてやろうじゃねぇか。…なぁ?」
敵船から荷物でも奪うように担ぎ上げた私をサッサと宴の賑わいから引き離しながら、静かに嫉妬の言葉を吐いて笑った。
「…しょうがないヒト。」
「お互い様だろ?」
「ふふっ。…そうね。」
「…あぁ。」
抱き合ってしまえばきっと
2人して転がり落ちる様に
愛に溺れるのだと、思う。
静かに、深く。