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▼ 振り向かせたいと願うことはきっと、間違いじゃない

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もし私がもう少し早く生まれていたら。
ベッドに潜り、眠りに着く前、月明かりが揺れる天井を見上げて、そんなことを考えるようになったのはいつのことだったか。些細なやり取りを頭の中で再現したり、キッチンでフライパンを振る後ろ姿を思い起こしたり。この習慣はもう随分前に形成されたもので、今となっては切なくて胸が痛い時間だけど、それでもはじめの頃は楽しいものだったように思う。

あいつは本気の恋はしない。だからやめておけ。そんな忠告をくれたのはマルコ隊長だった。
深く教えてはくれなかったけど、どうやら昔の女とやらを引きずっているらしい。


昼間の甲板に座り込んでいると、分厚い本を片手に持ったマルコ隊長がのんびりと歩いてきた。私の視線を追ってひょいと肩を竦める。

「凝りねぇやつだよい」
「だって好きなんだもん」

今日も今日で昨日と同じ返事を返した私は、隣に座り込んだマルコ隊長には目もくれず、豆粒ほどの大きさのサッチ隊長に向かって念力を飛ばす。こっち向け、こっち向け。

秋島海域を往くモビーの甲板は今のんびりとした空気が漂っている。風は心地いいし、空を見上げればうろこ雲が私達よりほんの少しだけ早い速度で流れていて、実にのどか。

「読書の秋ですか」
「よい」

マルコ隊長は読書の秋を決め込むつもりらしい。エースは昼ごはん後の昼寝の秋で、イゾウ隊長は得物手入れの秋で、サッチはというと「やだもうサッチ隊長ったら、」…鼻の下を伸ばす秋を満喫しているようだった。

「私はなんの秋だと思います?」
「不毛な片思いの秋、かよい」
「ぐはっ、まさかの直球ストレート」

地面に両手をついて血反吐を吐く真似をすると、マルコ隊長は本から視線だけを上げて呆れたとばかりの表情を浮かべた。

「やめとけっつってんだろい」
「いいんですー。私はいつかサッチ隊長を振り向かせる、っていうかむしろサッチ隊長が私にぞっこんラブ的な?そんな感じにさせちゃう予定なんですから」
「お前、そんなに馬鹿だったかねい」

どこでしつけを間違えたのかと真剣に悩むマルコ隊長は、兄を通り越して父親のようだ。そりゃ確かに私がこの船に乗った時はまだ15だったから、船のみんなからすると妹や娘のような感じなのはわかるけど。

「私、実はもう19なんだよね」
「さっきから何一人で喋ってんだい」
「え、サッチ?どこ?」
「…平和だねい」

おじいちゃんか!思わず突っ込んで笑うとマルコ隊長も釣られるように笑った。いつもふざけてしまうからマルコ隊長はきっと知らない。私がサッチをどれだけ本気で想っているかなんて。

あいつは本気の恋はしない。だからやめておけ。
マルコ隊長は今日も私に忠告して、だって好きなんだもん私はまたお決まりの返事を返した。


【振り向かせたいと願うことはきっと、間違いじゃない】





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