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▼ 素晴らしき伴侶

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「アン、ここ座れ」
「なんで?」

お腹が減りすぎてよろよろしながら家に帰ると、何故かエースがリビングで正座をしていた。神妙な面持ちだ。
私たちはかれこれ数年同棲してるけど、9割ほどの確立で私が出迎える。なぜなら私は無職で、エースは働いているからだ。
何故か座るように言われた言葉を無視して珍しいねと言ってみたら「いーから座れって。オスワリ!」とエースは真正面に置いてある座布団をぽんぽん叩いた。普段は帰ってきたらすぐ脱ぐスーツもばっちり着たままのところを見る限り、どうやら真剣な話らしい。しょうがない。座るか。こういう時のエースには逆らわないほうが身のためだ。

「はいはい座ったよ、アンちゃんは座りましたよー。どうしたの?ねぇエースお腹減った」
「まぁ待て。俺も腹減ってる。むしろお前より減ってる。死にそうなくれぇだ」
「じゃあ食べようよ。エースなんか作って」

自慢じゃないけど私は料理が苦手だ。そしてエースはうまい。だからいつも料理はエースが作る。お皿もエースが洗うし、洗濯だってごみ出しだってエースがする。せっせと家事をする姿を見て器用って得だなと私は常々感心している。教えてもらう気はない。非常に残念なことだけど、人には向き不向きというものがあるのだ。

「時にアン、聞くがお前なんで出かけてたんだ?」
「そうそう聞いてよエース!冷蔵庫の中がからっぽなの!キッチンの下もこっそり隠してたお菓子も全部ないの!!」

「なに!そりゃ大変だ!…て、隠してたのかよ。どこに?」
「そんなこと聞いてどうするの?あげないからね。もうないけど!全部食べたけど!!」

空腹のあまり食探しに彷徨った私の悲痛な叫びにエースは何故か真面目くさった顔をしてそうだろうとばかりにうんうんと頷いた。眉間に皺なんて寄せていて、ウケる。ぷっと吹き出すと目を細めて睨まれたから慌てて両手で口を押さえた。はぁと重々しいため息をついたエースが今度こそ本題に入った。

「…アン、非常に残念なお知らせだ」
「うん?」

「今日で食料が底を尽きました」
「は?」

「買いに行こうと思ったら銀行の口座もすっからかんでした」
「…え。社会人なのに?それって人としてどうなの?」

ドン引きだ。仰け反ってあんぐり開いた口を手で覆ったら、エースはその様子を暫く見た後無言で立ち上がった。寝室へと向かった後ろ姿を見つめる。軽蔑の目だ。

「ないわー。働いて3年でしょ?貯金ゼロって…ないわー終わってる」

だめだなこの男は。甲斐性ってもんが全くない。別れるしかないな。

「ッタ!痛いよ!きゃー家庭内ボーリョクー!」
「お前全部ダダ洩れなんだよ。で、これなんだ?」

頭を叩かれたかと思ったら(全然痛くないんだけど)、エースが寝室からなにやらデカいものを抱えて戻ってきた。

「あぁ!これ?これいいでしょ?えっとね、マ、マルコの等身大抱き枕///」
「…へぇ」

「ハッ!もしや欲しいとか思ってる?あげないからね!貸すくらいならい…や、やっぱ貸すのもダメ!それ私のだから!」
「いらねぇよ!!で、これいくらしたんだ?」

「10万」
「…」

「…これは?」
「きゃーマルコッ!それはマルコ柄の壷///」

「いくら?」
「30万」

「きゃーそれはマルコ似の石///」
「1円か?」
「まさか!100万」

「…なに?それレアなんだよ?あのね?世界に一つしかないんだって☆通販のおっちゃんが言って…ぎゃあああああ!なんて捨てたの?なんで窓から投げた今?!」

黙って話を聞いていたエースが突然立ち上がる。
おもむろに窓を開けて、素晴らしいフォームでマルコ似の石を投げた。


「だああああああ!!!お前人の金で変なもんばっか買うなよ!!!!壷ってなんだよ、石ってなんだよ!俺がいるのに抱き枕!?死ねよマルコっ!!!!!!!」

膝から崩れてシクシクと泣き崩れているエース。弱弱しい背中を見ていると、ちょっと申し訳なくなってきた。

「…エースごめんね?」
「ぐすっ」
「私、いなくなったほうがいいかな?」

クセっ毛が大きくブンブンと横に揺れる。

「ヤなの?じゃあ頑張って節約しようね?大丈夫だよ、このご時勢トイレットペーパーは公園のトイレにいっぱい落ちてるし、飲み物はドリンクバーに水筒持って行こ?ね?」
「…おう」

「エース大好きだよ」
「…俺のが好き」

「私のほうが好きだよー///」
「ぐすっ…マルコより?」

「マルコの次に好…ぎゃああああ壷っマルコ柄の壷割らないでーー!!」
「マルコより好きか?」

「す、すすす好き!」
「へへへっ俺も好きだぞ!」


【素晴らしき伴侶】
「エース!こんなところにもう一つ通帳が!!いっぱいお金入ってる!」
「ばっそれは…ルフィ用だからだめだ。手ぇ出すなよ?」

(本当は結婚貯金だなんてぜってぇ言えねえ)



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