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▼ 略奪癖

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私は男運が悪い。
正確には悪かった。
確かに今までダメ男にばかり惚れていたけど、この前できた彼氏はとてもいい人で、この人ならと私はとても嬉しくなって幸せだった。

でも、やっぱりダメだったみたいだ。
どう頑張っても私はきっとたぶんものすごく壮大に男運がなくて、だから今こういう状況に陥ってるんだと思う。


「…ここ学校なんだけど」
「だろうな」

「人来るんじゃない?っていうか叫んでいい?」
「そんな格好で助けを呼ぶなんざ、アンお前も大概モノ好きだな」

西日が射す美術準備室。
校庭からはオーやらわーやらとThe青春と言った爽やかな掛け声が聞こえて、普段ならしんと静まり返っている廊下にも楽しげな笑い声が響いている。10月といえば高校生にとってある意味一番楽しみなイベントとも言える学園祭が控えていて、最近はたくさんの生徒が夜遅くまで残って準備をしている。
学校全体がわくわくうきうきと浮ついた雰囲気に包まれている中、私は何故か薄暗い教室の壁に押し付けられていた。

模造紙を取りに来た、ただそれだけのはずなのに。いつの間にやら背後にいた男に気付いた時には既にこの状態だった。夏服にカーディガンを羽織っただけの背中に、ひんやりとした冷気がじわじわと侵食してきて酷く居心地が悪い。まるで時が止まったような空間にはダビデ像だか考える人だかよく分からないデッサン用の白像やスケッチ台が雑多に置かれていて、そう遠くはない筈の笑い声が随分遠くに感じる。

「…イゾウ先輩、つまんない冗談はやめてください」

全然笑えないんだけど。
ご丁寧に両手を壁に押さえつけているイゾウに向かって繰り返す。全然笑えない。

「そうかい、俺ァ結構楽しいけどな」

睨みつける私の視線など全く意に介さず笑うイゾウは、とても満足げだ。
嫌がる私を見下ろして目を細める。ご満悦か。

手首を掴む腕にグッと力が篭った。
今度はなんだ。全身から苛立ちが沸き起こる。

「、ッ」

軽く腰を屈めたイゾウは何を思ったか首筋に顔を寄せ、あろうことか舌を這わせた。

舐めて、擦って、吸って、噛んで。

自然と寄る眉間の皺をそのままに顔を背けると長い黒髪からふわりと甘い香りが舞って、私はまた苛立つ。

不快だ。
嫌がる気配を痛いほど感じているはずなのに、イゾウはクククっと喉を鳴らす。気まぐれな猫のように、獰猛な豹のように。

「何笑ってんのよ。鬼畜」
「へぇ随分な口聞くじゃねぇか」

黙りな。
吐息混じりに告げられたその言葉に反論する暇もなく唇が重なった。

「ンッ、フ」

呼吸もできないほど長く激しい交わりに足の力が抜けて、ついでに抵抗する意思も薄れる。見計らったように手首を押さえつけていた腕が外れて、腰と頭に回った。長い足が膝を割って入り込んでくる。

イライラする。
まるで焦らすように緩急をつけて動く舌に。
私の気持ちなど無関係な言動に。
そんなイゾウに堕ち始めている自分に。

チュっと大袈裟に余韻を残して離れた顔はやっぱりとても満足げで、

「あんな男さっさと別れな」

その口が紡ぐは至極勝手な言葉ばかり。


あー折角いい人と付き合えたのにな。
頭の片隅に浮かんだ変な髪形の穏やかな笑顔にごめんと呟いて、Deleteした。



【略奪癖】
堕ちて、アゲル。
お前だからだと微笑むその口許を、私は絶対信ジナイ。






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