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▼ 無自覚の意識

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「エースこれ買おうぜ!」
「おうっ・・・てちょい待て、入れすぎだ。お菓子は一個までだっつってんだろ」

「えーいいじゃねぇかたまにはー」
「たまにじゃねぇよ。お前いっつもそう言ってるじゃねぇか」

ブツブツお小言をいいながらもきちんと元の棚に戻すこの人は、ものすごくカッコよくて顔に散ったそばかすがすごく可愛い。あのブレザーは白ひげ高校のもので文武両道と名高い中高一貫の有名校だ。でも女子の間では別の意味ですごく有名。そうイケメンが多いのだ。チャラいのから色気満点まで各種取り揃えられたその高校の学生は、ここらの女子の間ではヘタなアイドルよりもよっぽど人気が高い。
この人もその一人。名前はエース。エースストライカーかなんかか?サッカーやってるなんて聞かないけど。

「なーんでだよ!いいじゃねぇか気にすんなっ」

エース君がきちんと棚に戻す傍から、どんどんお菓子をカゴに放り込むはルフィ君。白ひげ中学の人気者だ。度の過ぎた純粋さとわんぱく具合が女子の心を鷲掴みにしている。

「だっからお前はもう・・」

この二人は兄弟で、私のバイト先のスーパーによく来る常連客。
ちなみに今私のレジの真正面にあるお菓子コーナーで繰り広げられている兄弟げんかというか私の目の保養はあと2ターンで終了する。なぜ分かるのかと言えばいつも同じパターンだからだ。お菓子コーナーでのこのやり取りは、しないといけない決まりなのだとでも言われたほうが納得できるほどに、いつも一緒だ。

「だってこれシャンクスだぞ!」
「そんなんどうでもいいって、くだらねぇ。さっさと置け」

1ターン。

「なんだよっ。じゃあこれにしよう!モビーだ!」
「・・・今日だけだぞ」

2ターン目。終了だ。
そのままわいわい言いながら私からは見えない店内奥の肉コーナーに行く。そして、数分後にちょっとどうしたらいいか分からないくらいの肉を積んだカートを押しながら再登場するのだ。私の前に。

「いらっしゃいませ」
「あっルフィこらガム入れんなよっ」
「バカだなエース。これは飴だっ」

ピッピッと手際よく肉や肉や肉をレジに通していく間も二人の会話は止まらない。家でもずっとこんな感じなんだろうか?なにそれぜひお邪魔したい。

「じゃあこれにしよう」
「バッそれっ」

「なんだよエース!うまそうじゃねぇか」
「食いもんじゃねぇっていつも言ってんだろ」

エース君がすごい勢いで奪って棚に戻す。少し顔を赤くしながら焦っているエース君は実に可愛い。そうだよ、ルフィ君。それ食べらんないから。
私はかごの中の食材と格闘しながらも心の中でエース君に同意する。いくらイチゴのおいしそうなパッケージでも食べちゃダメだ。まぁ中学生にはまだ分かんないだろうけど。

「3421円になります」

私の声にエース君がちらっと金額の表示された液晶を見る。

「ほらルフィこれもって先行ってろ。詰めとけ」

財布の中を漁りながらルフィ君に呼びかける。視線は完全にお財布に集中。たまに金額の表示。
ルフィ、ルフィ、ルフィ。スーパーと言えば、ルフィで肉でレジ前の少し教育によろしくないアレ。でやっぱりルフィだ。そこに私の存在は一ミリも入っていない。いやゼロかもしれない。2日に1度、少なくとも3日に1度の頻度でスーパーに来るのに、かれこれ1年は顔を合わせているのに。町で会っても確実に素通りだろう。

「ありがとうございました。またお越しくださいませ」

こら、肉の上に牛乳乗せんな。
優しい顔でプリプリ怒っているエース君に私は人知れず呟いた。

「なんでいっつも私のレジなのよ」


【無自覚の意識】
だったらうれしい、なんて。
私も相当ハマってる。




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