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▼ トらファルがー医院

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風邪を引いた。
一人暮らしを始めたばかりで土地勘のない私は、とりあえず駅前にある病院に向かった。

トラファルガー医院。
駅前の一等地にあるこの病院は個人経営にしては大きい。立派な佇まいだ。
ドアを開けるとシロクマが迎えてくれた。

「どうしたの?風邪?」

わっ真っ青だよ!大変だっキャプテーン!

くま?キャプテン?
ツッコミどころが多すぎて追いつかない。そもそも私は病人なのだ。シロクマに渡された体温計を脇に挟んでぼーっとする。受付の奥ではピンクの看護服を着たシロクマがぱたぱたと歩きまわっていた。胸にはBePoと下手くそな字で書かれている。名札くらい作ってやれよ。随分不憫な扱いだ。


「そんなに俺の隣に座りたいのか」

患者は一人もいなかったのですぐに呼ばれた。診察室に入ると目の下にものすごい隈を飼っている男がいた。どうやらこの不健康そうな男が医者らしい。名札にはトらファルがーと下手くそな字で書かれていた。幼児の殴り書きか?

私はようやく気づいた。しまった。失敗した。完全なチョイスミスだ。そもそもシロクマに出迎えられた時点でこの病院の怪しさに気づくべきだった。熱があるって怖いな。

「え、どこに座ればいいんですか?ていうか帰ってもいいですか?」

私はいわゆる診察をしてもらう位置関係に配置された椅子に座ったはずだ。医者の横に向きあうようにして座っている。うん、普通だ。

「そこでいい。帰るな」

こちらには目もくれず机に並んだ医療器具をがちゃがちゃしている。机の上は思ったよりも整理整頓されていた。診察室も綺麗だ。
壁にはこれまた子供が一生懸命描いたのだろう可愛らしい落書きが飾られている。シロクマと目の下が真っ黒に塗りつぶされた男。あぁ実は街の人気病院なのかもしれない。きっとちびっ子が絵を描いてプレゼントしたのだろう。

「可愛いでしょ?ボクが描いたんだ」

・・・お前か、シロクマ。受付に通じるドアから音も立てずに入ってきたシロクマは私の視線を追って、照れた。

「もしかしてその名札もですか?」
「そうだよっ!これが一番上手にかけたんだっ」

シロクマは頬をピンクに染めて、くふくふと嬉しそうに笑った。両手で口を隠すしぐさがなんとも奥ゆかしく可愛い。

シロクマは、かわいい。・・・よし、帰るか。

どう考えても、普通じゃない。この病院は危険だ。
そもそもなんでしゃべるの?このクマ。よく考えたらめちゃくちゃコワイ。え、まさか着ぐるみ?なにそれもっとコワイ。

「な、治ったので帰ります」

いざ逃げるべし。
わちゃわちゃと椅子から立ち上がり頭を下げてからドアへと足を向けた。頭がフラッとするが構っている場合ではない。命の危険を感じる。ここにいては危ない、絶対。
腕にひんやりとした何かが巻き付いた。驚いて振り返ると、トらファルがー先生の手だった。

「黙って座ってろ。熱があるんだ。診察が終わるまでここからは出さない」

こちらをまっすぐに見てそう告げる目は意外に綺麗だった。治療にかける真剣さが伝わってきて私は自分の行動を反省した。おとなしく座ると、シロクマがにこにこしながら私の背後に移動した。
トらファルがー先生が注射の用意を始めた。注射器からポタポタと雫が落ちる。

「・・・1ヶ月ぶりか」

ぼそっと呟かれたその言葉に、脳内でエマージェンシーコールが鳴り響いた。

「ベポ、出口を塞げ。それから服を脱がせてあとはここに近づくな」



あなたの健康、守ります。
安心☆安全
【トらファルがー医院】




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