※捏造
大戦後、ギン生きてます






藍染の大逆による空座町における全面対決は、黒崎一護の活躍により、死神軍勢の勝利に終わったが、その被害は甚大な物であった。大戦に参戦した護挺十三隊の隊長、副隊長は皆重傷を負い、四番隊による緊急治療、症状の重い者は十二番隊による臓器回復術を受けることを余儀なくされた。反逆の首謀者である藍染は崩玉の力により不死の力を手にしていたが、浦原の手により封印され四十六室の判断により一万八千八百年という途方もなく長い時間の投獄の刑に処された。



四番隊隊舎の地下隔離棟集中治療室、入口には屈強な隊員が二人待機しており、厳重な警備がうかがえる。この警備は、今回の件の生き残り−藍染の腹心の部下であった市丸ギンが治療を受けているに他ならない。市丸は藍染により重傷を負わされていたが、救護班が駆けつけた際、まだ息をしており、今回の件の重要参考人として四番隊による治療を受けていた。


罪人であるため、失った右腕の治療は行われていないが、負傷した部分への回復術はすでに施されていた。傷は回復傾向にある一方で、市丸の意識は一向に戻らなかった。そのため、護挺十三隊は治療室に警備を置き、市丸が目を醒まし逃亡を謀らないよう監視する策をとったのである。



十番隊隊長、日番谷冬獅郎は、四番隊舎の地下へと足を運んでいた。入口にいる隊員に許可証を見せ、治療室内へと足を進める。
室内には病床は一つしかなく、脇には生命維持のための器具が一定の間隔で音を刻んでいる。日番谷は病床の脇に座りこんでいる探し人を見つけた。


「・・・松本」


その声にたった今その存在に気づいたのか、ビクリと肩を揺らし松本は声の主を振り返った。


「隊長・・・どうしたんですか、こんな所へ?」


彼女のその顔を見て、日番谷は眉をひそめる。普段の様に努めて軽い調子で話しているが、目の下には隈ができており、美容を気にする彼女にあるまじく肌も荒れ、心なしか痩せてしまったように見える。
彼女が隊務を終えた後にここへ通っていることは知っていた。彼女の友人の話によれば休日も大好きな飲み会にも参加せず、ここへ足を運んでいるらしい。彼女の様子からも疲労の色がうかがえる。


「松本、お前自舎に戻って休め」


「あれぇ隊長いいんですか?普段は働け働けってうるさいじゃないですか」


へらへらと笑いながら茶化して返してくるが、そこで引き下がるつもりはなかった。


「・・・そんな顔で隊務に就く気か。副隊長がそんな面してたら他の隊員の士気に関わる。−−−せめてその隈が無くなるまで、隊舎には出なくていい。ただし、自舎で待機だ」


その言葉に松本は目を見開き日番谷に食ってかかる。

「大丈夫です。隊務にに支障は出しませんし、ちゃんと夜には自舎には戻ってますからアタシのことは気にしないでください」

そういうと松本は目を伏せ、依然として病床の傍から離れようとはしない。
取り付く島もなく、沈黙が室内を支配する。


しかし、沈黙を打ち破ったのはやはり日番谷だった。

「・・・市丸がお前の同期で心配なのは分からなくもない。だがな、市丸は反逆者なんだ。副隊長のお前がここに入り浸っているなんて知られてみろ、隊内で立場や信頼を失うことになるんだぞっ・・・!」


思わず語尾が感情的になってしまう。

だが、彼女を思っての説得も彼女を動かすには至らなかった。
松本は目を伏せたまま、眉に皺を寄せ、口を開いた。
その声は、普段の彼女からは考えられないほど弱々しいものだった。

「・・・心配してくださってありがとうございます。でも、これだけは・・・これだけは、」

そこまで言うと、松本は顔を上げ、日番谷の目を見据え、続けた。


「譲れません」


松本の瞳には強い意志が宿っていた。その目を見て、日番谷は分かってしまった。彼女の意志は固く、何者も彼女の意志を変えることはできないだろうと−−−

日番谷が次の言葉を紡ぐ前に、松本は再び口を開いた。


「隊長が言うような心配じゃないんです。−ただ、目が醒めたら時に一発殴ってやりたいんです。ただそれだけのことなんです・・・」


日番谷を捕らえていた瞳はいつの間にか病床に横たわる市丸へと移されていた。物騒な言葉とは裏腹に、市丸を見つめる彼女の瞳には慈愛が垣間見え、思わず日番谷は目を見開く。それと同時に、今までの彼女の行動に納得がいき、自分が口を出すことではないのだと悟った。
日番谷は無理をするなよ、と松本に一言声をかけ、その場を後にした。−−−病室を出る際に目に入ったのは、横たわる市丸の手を握り、その顔を見つめ続ける松本の姿だった。






「あんたが起きるのを待つなんて、初めてね」


返答のない呼びかけは室内の沈黙へと溶けていく。


あの頃はいつもあたしが目を覚ますと、アイツの糸目がこちらを見ていた。
寝る時だってそうだ、あたしが眠るのを見届けてからアイツは眠っていた。もしかすると寝顔を見るのは初めてかもしれない。
そこまで考えて、いつも見守ってくれていたのだと、また一つ彼の優しさを思い出してしまう。それがなんだか悔しくて、思わず悪態をついてしまう。

「・・・いつまで寝てんのよ、馬鹿ギン」


やはり返る言葉はなく、自分の呟きが虚しく響いた。

名前を呼んでも、返してくれない。ただそれだけのことが、無性に悲しかった。彼は生きていて、今自分はその手を捕らえているのに、まだ彼を遠くに感じてしまう。


何度も置いていかれた。それでも彼を追いかけ、今この手を放したくないのはきっと、自分を泣かせないためといった彼の言葉を信じているから。その言葉に縋っていたいからだ−−−−

彼が目を覚ませば、彼は拘束され、何らかの刑に処されるだろう。そうなってしまっては、一隊士である自分の手の届かない所に行ってしまう。
それでは困るのだ。彼が目を醒ました、その事実を最初に知るのは自分でなければならないのだ。そして一発殴ってやらないと気が済まない。散々彼の言動に振り回されたのだ、一発くらい罰は当たらないだろう。


そして今度こそ問い質してやるのだ。いったい何がしたかったのか−−−あの言葉は嘘だったのか、と。








縋りたい
(あなたの言葉は私の糧)










[]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -